「あいまい」で「下北沢らしい」非画一的な商店街・BONUS TRACKとは(中)
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境界をあいまいに、街に「店の色」を
BONUS TRACKは、世田谷区管理道路(幅員4m)沿いの敷地に中央棟やSOHO棟が並び、周りを囲む住宅街に調和するスケールで建てられている。建物間の空間が広く、屋外でイベントや販売、休憩ができる緑豊かなスペースが多くあり、敷地の余白をうまく生かしたつくりとなっている。
「建物ごとに5つの敷地に分けて、建物と建物の間に境界をつくらず、敷地内を通り抜けられる道や中庭のような広場をつくって公園のようにしているため、街に訪れた人や近所を通りかかった地元の人が何気なく入りやすい」と山道氏は話す。道や広場、空き地など街の公共空間で規制を強化しすぎると、店舖が外に向けて個性を表現しにくくなり、「下北沢らしさ」がなくなってしまうと考えたのだ。
ツバメアーキテクツ・共同代表の西川日満里氏は、「建物の完成後も、テナント自身で建物に手を加え続けられるように工夫している。たとえば庇の仕上げや一部の外壁の仕上げも店舗ごとに決められるようにして、“店の色”が表出するようにした。リースラインを設けず、店舗同士で調整することで、広場などの屋外空間を状況に合わせてシェアできることや、建物基礎の跳ねだしを利用したベンチやカウンターによって集いやすい場所にすることなど、建物の内と外をつながった空間とし、“店の色”が街に溢れ出すことを目指している。また、敷地内に島状の植栽帯を緩やかに設けることで、住民が入りやすく過ごしやすい状況をつくっている」と話す。
一般的な商業施設では難しい、建物本体へ手を加えられるようにする仕組みづくり、配置計画や植栽計画によって店舗スペースの“伸び縮み”を促すことなど、さまざまな工夫によって訪れた人に店の個性が伝わりやすくするアイデアだ。
時間と文化が蓄積~BONUS TRACKの運営手法
新たなスタイルの商店街を運営するため、BONUS TRACKは体制づくりにも工夫がある。BONUS TRACKのプロデューサーであり運営者の(株)散歩社・代表取締役CEOの小野裕之氏と取締役CCOの内沼晋太郎氏が、日本全国の発酵調味料などを販売する「発酵デパートメント」などの魅力あるテナントを誘致し、店舗物件の貸出しや企画運営、自治を行っているのだ。
「通常の商業施設ではオフィスや店舗が入れ替わると、今までつくったものをいったんゼロにしてしまうが、多くの人が好む街とは、時間や文化の蓄積が痕跡として残っている街だ。散歩社が小田急電鉄からマスターリースする仕組みにより、施設のメンテナンスを継続できる体制を実現させている」(山道氏)。
散歩社の内沼CCOは「本屋B&B」「日記屋月日」、散歩社の小野CEOは「お粥とお酒ANDON」「発酵デパートメント」を運営し、施設にとどまって関わり続けることで、昔ながらの商店街のように現地でメンテンナンスを行っている。時間が経つにつれて、進化するまちづくりを小田急電鉄は目指しているのだ。
(つづく)
【石井 ゆかり】
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