2024年04月29日( 月 )

「あいまい」で「下北沢らしい」非画一的な商店街・BONUS TRACKとは(後)

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「らしさ」を残す、これからの開発

中央棟(商業棟) ©morinakayasuaki

 画一的ではない“その街らしさ”を残し、人々が暮らしやすいまちづくりを実現するには、どのような工夫が必要なのだろうか――。この問いに対し山道氏は、「時間とともに街の個性が磨かれ、その価値が高まるためには、デザイン上の工夫だけでなく、運営者や街の関係者が建物の完成後もとどまってメンテナンスを続け、その場所を良くしていける経済的な体制づくりが欠かせない。これにより、他にはない街の個性が出てくるようになると、訪れたいという人も増え、魅力あるまちができるチャンスもさらに広がるだろう」と答える。

 また、BONUS TRACKでは境界をあいまいにすることで人が訪れやすい場所を実現したように、西川氏は「敷地を超えた枠組みで建築を考え直すと、今までとは違ったスケールで、これまでにない使われ方の建物ができるのではないか。BONUS TRACKでは、世田谷区管理道路との関係、『下北沢線路街』内の位置付け、周りの住宅地との調和などを考えて設計に携わったが、街全体に視野を広げて設計する試みがさらに普及すれば、街並みも大きく変わるだろう」と話す。

 「BONUS TRACKは店舗の集まりでありながら、住宅のようなデザインを採用している。住宅地と商業地を分けず、両方が混ざり合った街だからこそ、人は過ごしやすさを感じられる。“街らしさ”を残すためには、店舗が個性を出しやすい設計が重要だ」(山道氏)。

 さらに、新型コロナによる生活変化がまちづくりに与える影響について、千葉氏は次のように話してくれた。

中庭のような広場と周りを囲むSOHO棟 ©morinakayasuaki

 「東京都内では、コロナ禍で飲食店がどんどん路上に広がっていく様子が見られ、国交省からも飲食店による路上利用の規制を緩和する発表があった。日本では土地が細分化され個々に所有されていることによって、土地の利用が管理されて制限されているが、このように所有するのではなく共有して活用できれば、人が暮らしやすい豊かな空間をつくることができるのではないか。BONUS TRACKでは、通り抜けができる道や店舗がはみ出せる広場として開放することで、小田急電鉄による民間の土地でありながら公園のような空間をつくることができた。そうすると、散歩ついでにフラッと立ち寄った人がつい買い物をしたり、目的がなくても立ち寄ってお店の人とコミュニケーションを取ることもできる。たとえば、住宅地でも、小さな庭をそれぞれが所有するのではなく、大きな庭として共有して使うことができると、まちの在り方も大きく変わるだろう。こうした地域で共有する空間を増やすことは、高齢化社会における地域での見守り機能の強化にもつながるだろう」。

 コロナ禍をきっかけに、人の流れが変わり、移動が減少する社会になるといわれている。ビジネスや日常生活で「移動せずにできること」が増えたこれからの社会では、街に魅力がなければ、多くの人が住み、訪れたい街として、生き残ることができない時代が来るかもしれない。「その街らしい個性」を残したまちづくりが、これからの時代に不可欠になるのではないだろうか。

(了)

【石井 ゆかり】

(中)

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