2024年05月04日( 土 )

【凡学一生のやさしい法律学】河井克行・案里夫妻買収事件の闇(1)

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河井克行・案里夫妻買収事件の背景・経緯

 通常、買収事件の経緯や背景を考察する意義はない。立候補者が当選を目的に選挙人やその関係者に投票を依頼し、その対価として金銭その他の利益を供与するという構造が明白であるから、背景や経緯を考察する意味がない。しかし本件では事件の公訴に至るまでに極めて異常な状況が関連して発生しており、それらはすべて国政上、極めて重大な問題を内包しているため、それ自体が重大な政治問題となっている。

 本件は、事件の規模と投下された金額の膨大さが1つの際立った特徴である。当然、その原資はどこからきたのかという背景・事情も考察の対象となり、「政党交付金ではないか」という疑念が存在する。

 被告が今般の選挙に関して、自民党から1億2,000万円の交付を受けたとされることは事実だ。しかし、同じ自民党の他の候補者の交付金が2,000万円であることと比べると、極めてバランスを欠いた交付金額であり、その理由や背景も考察する必要がある。

 背景・経緯として特筆すべき点は、大規模な巨額買収事件でありながら、長く検察の捜査の行方が不明であったことだ。しかもその「奇妙な停滞」があったにも関わらず、ある検察幹部の賭けマージャン事件の発覚という意表をつく事件により、急転直下、捜査と起訴が行われたことである。

 以前からこの事件の捜査が進展しなかったことの理由として、この賭けマージャンを行った検察幹部の捜査へのブレーキ効果が指摘されていた。安倍政権が唯一頼みにする検察幹部であり、安倍政権はこの検察幹部のために個別的な定年延長を認めたのだが、それではあまりにも「えこひいき」の恣意性が明白になるため、検察官全体の定年延長法案を提出して辻褄を合わせ、何食わぬ顔をしていた。しかし、常習的賭けマージャンの発覚により、これらすべてはご破算となった。

 このため、本件では、通常の選挙法違反買収事件とは異なる様相が弁護団の主張に現れている。公選法違反買収事件に限らず、日本の刑事事件は99.99%の有罪率である。この異常数値の1つの原因が、ヤメ検弁護士による情状弁護専門にある。とくに、政治家犯罪、買収事件の弁護人には大物ヤメ検弁護士がつくことが多い。しかし原則は情状弁護であり、無罪弁護は例外的である。とくに本件のように、違法捜査、違法収集証拠の主張による無罪以前の公訴棄却の請求は、ヤメ検が行うことは稀である。

 それでもヤメ検が政治家の弁護人につくことが多いのは、大きな理由がある。その理由は、裁判を長期化して、議員の任期満了以降に判決確定を持ち越すことが検察との間に阿吽の呼吸で成立するからである。この方法で議員は歳費や報酬を満額取得できる。ところが、今回は裁判所が百日裁判を目指しており、もはやヤメ検の情状弁護の余地はなくなった。そこで、弁護側は無罪弁護に加えて不適法起訴による公訴棄却の主張を行っている。検察の違法捜査を理由に証拠能力を否定した判例は下級審にわずかに存在するだけで、上級審には存在しない。

 以上に説明した特異な事情は一切、本件刑事裁判では争点論点となることはない。常に全体的な大局観と俯瞰能力がなければ、事件の本質は忘却される運命にある。

(つづく)

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