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2020年09月10日 11:24

【ラスト50kmの攻防】国体は良くて、「新幹線はダメ」の根拠は? 「佐賀国体」会場に540億円

莫大な財政負担リスクは長崎新幹線だけか

 佐賀県議会の9月定例会が8日開会。山口祥義知事は本会議冒頭の提案事項説明で九州新幹線長崎ルート(博多―長崎間)の整備方式に触れ、「新鳥栖―武雄温泉間は在来線をそのまま利用するのを大前提として整備が進められてきた。フリーゲージトレイン(FGТ)を断念したからフル規格で整備(標準軌新線を建設)するのは筋が違う」と主張した。

 その理由に挙げるのは、(1)莫大な財政負担(2)在来線の利便性低下の2つ。「佐賀県が大きなリスクを負ってまで対応しなければならないものではない」と述べた。

 じつは、山口知事の言う「莫大な財政負担という大きなリスクを負う」事業が別にある。24年秋の2巡目佐賀国体(国民体育大会・全国障がい者スポーツ大会)の主会場になる佐賀県総合運動場(佐賀市)の〈お色直し〉がそれだ。

 山口氏の知事就任以降、佐賀県総合運動場は所在地「日の出」を横文字化して、「SAGAサンライズパーク」に変更していた。軌を一にして国民体育大会も「国民スポーツ大会」に改称。略称は「国スポ」。佐賀大会は国体改称後初の大会になる。

山口知事は、国スポ(国体)開催に熱意

 国スポに賭ける山口知事の意欲は“半端ない”。10日間ほど使用する主会場整備費は、総額540億円。新鳥栖―武雄温泉間を標準軌新線で建設すると、国交省試算では佐賀県の実質負担は660億円。財政負担の大きさではさほど大差はない。

 整備費のほぼ半分、262億円は「SAGAアリーナ」と呼ぶハコモノの建設費。スポーツ大会や各種イベント、会議など多目的利用を想定した佐賀県初のMICE施設だ。建物は地上4階建て、高さ30.2m。延床面積2万9,800m2。最大8,400人収容できる。近隣施設では、福岡市の博多港近くで隣り合う福岡国際会議場(延床面積2万4,000m2)と大相撲九州場所会場の福岡国際センター(同1万3,000m2)を合わせた規模に迫る。

 当初、知事は、周辺整備込みでアリーナを197億円と見込んでいた。ところが19年10月の建物本体工事の入札で、全業者の入札価格が落札業者を決定する上限の予定価格を上回る「不落」になり、請負業者が決まらなかった。

 予定価格の基になる実施設計の作成は19年6月。その4カ月後の入札が「不落」という事態は、あまり考えられない。山口知事は本体工事に60億円、関連工事に5億円ずつ追加する補正予算案を編成。昨年11月定例県議会に提案した。

 山口知事は建設資材の高騰を不落の要因に挙げて、「私自身も大変憂慮している」などと増額補正案の承認を求めたものの、県議会側の不満は知事の想像を超えていた。

 「65億円という巨額を投じるのだから、『申し訳なかった』とくらい言わないと。当然のことのようにして、あんた、補正予算が通ると思っているの」。

 県議会最大会派・自民党の佐賀県連会長を兼ねる留守茂幸氏が知事の姿勢に注文を付けた。「私の言い方が足らないというお話をいただいた。県議会や県民の皆さまにお詫び申し上げたい」。知事の口からやっと謝罪の言葉が出た。

 県議会は、建物工事費を含む補正予算案の議決を保留することなく通過させた。結果、建物工事は入札を終え、今年3月から地盤改良やコンクリート杭打設工事などが進行中だ。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、今秋予定されていた鹿児島国体が1年延期、「国スポ佐賀大会」も23年から1年延びた。一方で、「SAGAサンライズパーク」全体の完成予定は22年10月。24年秋の〈本番待ち〉状態が2年間続く。

維持管理費は新幹線ゼロ

 国体では、施設への過剰投資と成績アップ狙いのいわゆる「ジプシー選手」()集めが批判されてきた。開催頻度は50年近くで1回で、施設整備は過度になりがちだ。施設建設そのものは一時的な支出だが、維持管理費や補修費はその後も発生する。

 佐賀県は、「SAGAサンライズパーク」全体の維持管理に指定管理者制度を採用。公募、審査を経て、大手広告代理店の電通が代表の12社でつくるグループが、2月定例県議会で承認されて指定管理者に決まった。管理期間は10月1日~31年3月31日の10年6カ月間。佐賀県によると、管理委託料の上限は50億850万円。施設利用料金の23億360万円と合わせ、管理者は73億1,200万円の収入が見込めるという。

 維持管理費に限れば、新幹線はJRが維持管理するため佐賀県負担はゼロ。指定管理制度は、利用料収入次第では委託料の上限を上げざるを得ないリスクも抱える。

 自民党佐賀県連は4日、国交省が提案する複数の整備方式に対応する環境アセスへの同意を拒む山口知事に「再考」を申し入れると決めた。アセス実施中に国交省と協議して整備方式を選択すればいいと〈譲歩〉したようにもみえる。申し入れに対し、山口知事はどう回答するのか。

佐賀県が総額540億円投じて佐賀市日の出2丁目に整備中の「SAGAサンライズパーク」完成予想図。
左手奥の建物が、周辺を含め262億円かける佐賀県初のMICE施設「SAGAアリーナ」とみられる
=佐賀県庁ホームページから

【南里 秀之】

※日本では「ジプシー」という言葉を、「定住地を持たない」「放浪、流浪」などを象徴する意味で用いることがほとんどだった。しかし実際は、「ジプシー」は歴史的にみても極めて差別的指向を含意する言葉であるため、当事者からの指摘もあって、現在では「スィンティ・ロマ」「ロマ」などと呼ぶようになっている。 ^

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