2024年04月25日( 木 )

唐戸商店街と学生が連携する地域事業~教育を通じた「まちづくり」(前)

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下関市立大学 教授 難波 利光 氏

ものづくりが人を集め、人が集まれば地域ができる

 ――「KF project」を始められた経緯についてお聞かせください。

難波教授

 難波 私は2008年に下関市立大学に赴任しましたが、財政学と地域経済学を専攻していることから、何らかの地域活動を行いたいという思いを抱いていました。そのなかで、ご縁があって唐戸地区の地元商店街の方々との交流するなかで、学生と一緒に何か始めようと、2010年にまちづくり団体として「カラトンファクトリー(KF)」を立ち上げ、「KF project」の活動を開始しました。

 活動においては、まずシンボリックなものが必要かと思い、地元キャラクターとして「カラトン」を考案しました。プロジェクト名にも冠していますが、「カラトン」という名前の由来は、唐戸の「カラ」と、下関の特産であるフグの漢字表記の「河豚」に含まれている「トン(豚)」を組み合わせたものです。

 活動理念には「ものづくり」「人づくり」「地域づくり」を掲げていて、ものをつくっていけば人が集まり、人が集まれば地域ができる―と考えています。なかでも「ものづくり」は、私や学生たちだけでものをつくって見せるのではなく、地域の住民を巻き込みながら活動していくことが大事だと思っています。

 ――学生に向けての教育の一環という目的もあるのでしょうか。

 難波 それもありますが、この活動は大学が主体・推進する活動ではありません。あくまでも学生たちの自主的な任意活動として取り組んでいます。というのも、任意団体での活動であれば、我々が思ってもいない学生目線による臨機応変な学生らしい活動が生まれるほか、学生自ら準備を行うことの経験が得られ、地域の方々との意見を交わしながら地域をつくっていく機会ができます。

 これが、大学での単位取得をともなう活動にすると、単位目的に参加するだけの学生も増え、本来の目的からは逸脱して、お互いに有益な活動にならないこともあります。大学組織と地域組織の連携による活動とは別に、主体となる地域住民と学生とがお互いにコンタクトを取って、まちづくりとして何か考えてやってみることがコンセプトです。

 私は学生に対して、「準備8割、本番1割、打ち上げ1割」とよく話しています。多くの学生は準備を嫌い、本番だけに参加すれば良いと考えがちですが、何より大事なのは、活動の計画を行う準備です。地域住民と喧々諤々して活動内容を決めることが、学生が学ぶべきポイントなのです。

唐戸商店街

 私はこの活動において、学生と地域の方々を統括する役割を担っていますが、学生の地域活動に向き合う姿勢には年ごとに濃淡があります。そのため、私の独断で毎年のルーティーン活動にしても仕方ありませんので、まず学生に対して「この活動を行いたいか」の確認を行う一方で、地域の方々に対する学生活動へのニーズの確認は必ず行っています。

 学生たちは先輩方から活動内容を聞いたうえで参加しており、主体的に地域貢献に取り組むほか、その経験を勉強や就職活動で非常に役立てているようです。学生にとっても、“やらされている”かたちではない、とても貴重な経験を積めることが大きいのではないでしょうか。

住民が学生と一緒になって地域活動を楽しむ

 ――KF projectではこれまで、どのような活動を行ってきましたか。

 難波 代表的な事例では、空き店舗の有効活用を目的として、期間限定で学生による飲食店の運営を行いました。学生たちは、食材の仕入からメニューの決定まで、飲食店の運営に関するすべての業務を担当したことで、ソーシャルビジネスの試みとして大きな経験になったと思います。

 また、下関沖で獲れるウチワエビを新たな名物にしようと、例年春に開催されている「唐戸まつり」でウチワエビを使った海鮮焼きそばを販売しました。ウチワエビは隠れた美食材で、焼きそば以外にも塩焼きやボイル、天ぷらなど、調理方法を変えてお客さまに食べ比べをしていただきました。おかげさまで、大変好評でしたね。

 そのほかに、地域住民の写真をモチーフとしたモザイクアートやトリックアートの展示や、近隣の公共施設での社会貢献活動なども行っているほか、最近では唐戸以外でも萩や大分の中津の商店街とも連携して活動の幅を広げています。

(つづく)

【小山 仁】


<PROFILE>
難波  利光
(なんば・としみつ)
 1968年岡山市出身。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了、学術博士。財政学、社会福祉学を専門に下関市立大学経済学部教授・大学院経済学研究科長を務めるほか、中四国商経学会会長、(一社)九州経済連合会行財政委員会企画部会委員、(協)唐戸商店会員外理事、(一財)山口老年総合研究所理事、下関市山の田地区まちづくり協議会支えあいプロジェクト部門顧問、岡山後楽館高校地域協働学校運営協議会委員、大分県中津市商店街活性化とまちづくりに向けた大学連携事業のためのアドバイザーなどの肩書をもつ。

(中)

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