2024年03月29日( 金 )

木造×鉄骨造 の13階建ビルにハイブリッド耐震システム「木鋼組子(モッコウクミコ)」(前)

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中高層建築への木材利用

 木造の長所の1つは軽さだが、S造やRC造に比べて強度がないため、中高層の建物を木造とするにはいかに強度を高め、耐震化するかが課題だった。
 前田建設工業(株)は、設計事務所の(株)ホルツストラと共同で、木材と鉄骨を組み合わせるハイブリッド耐震システム「木鋼組子(モッコウクミコ)」(特許出願中)を開発。木鋼組子は都市型高層建築の耐震要素として、2022年度に竣工予定のビル「(仮称)道玄坂一丁目計画」(東京都渋谷区)に適用されている。

 東急不動産を事業者とする同計画は、前田建設工業が設計を担当。13階建てS造と一部木造のハイブリッド構造の建物に店舗や事務所が入居する予定で、敷地面積は約170m2、延床面積は約1,400m2。先進的な技術導入により大規模建築物の木造化を実現する計画として、国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」にも採択された。

 前田建設工業・建築事業本部構造設計部構造第2グループチーフエンジニアの渡邉義隆氏は、「木鋼組子は、高層建築で一般的に採用されるS造に、木材と鉄骨を用いた耐震要素をいかに組み込むかという点に注力した。木材と鉄骨はこれまでの接合方法では粘りがなく、想定外の地震を受けると一気に強度が低下してしまうため、接合部分の設計が課題となり、地震時の変形が大きくなる高層建築への利用が難しかった。そこで、耐震性能を備えた木材と鉄骨の接合方法として木鋼組子を開発した」と語る。

 木材は圧縮に強く、鉄鋼は引っ張りに強いため、接合部位で圧縮力を受ける部分を木材のみ、引張力を受ける部分を鉄鋼のみに負担させる構造だ。木鋼組子を耐震要素のブレースとして利用することで、通常のS造に比べて地震時に柱や梁などの構造材にかかる負担が少なくなり、柱や梁などの重量の軽減に加えスリム化が可能になる。同建築事業本部先進設計開発部先進第1グループ長・窪崎小巻氏は、「都心部で木材を使った建築計画が増えており、国も木造を推奨している。木質耐震要素の開発を始めた直後に、東急不動産(株)から要望をいただいたため、この技術を活かした提案を行い採用に至った」と話す。

前田建設工業(株)
営業第3部第2グループ 主査 福田 大士 氏(左)
建築事業本部構造設計部構造第2グループ チーフエンジニア 渡邉 義隆 氏(中)
先進設計開発部先進第1グループ グループ長 窪崎 小巻 氏(右)

木鋼組子の耐震構造

 木鋼組子は、2枚の集成材で中央部の鉄鋼板をサンドイッチのように挟む構造だ(図参照)。(仮称)道玄坂一丁目計画では、断面が120mm×240mmの集成材2枚で鉄鋼板を挟んでいる。鉄鋼は接合金物で柱や梁に固定されているが、木材は固定されておらず、鉄鋼と面で触れ合っているため簡単に動く仕組みだ。

木―鉄骨ハイブリッド耐震システム「木鋼組子」の概要

 木材を鉄鋼と接合する方法の1つに、木材の中央部にスリットを設けて鉄鋼板を差し込み、木材側面からドリフトピンを打ち込んで固定する方法がある。低層建築は大地震時も建物に大きな地震力が作用せず大きな変形を受けにくいため、ドリフトピン工法が多く用いられるが、中高層建築は大地震時に大きな地震力が作用するため大きな変形を受けやすい。地震時に鉄鋼板からドリフトピンにかかる力がある値を超えると、木材が大きな変形と力に耐えられず、木材はドリフトピンとの接合部分で割れるため、急激に耐力が落ちてしまう。そのため、中高層建築でドリフトピン工法を用いる場合は、より大きな地震に対応できるように想定しなければならず、大きな構造体に設定する必要があるという。

 一方で、木鋼組子は大地震で大きな力がかかったときも、木材が接合金物にめり込んで圧縮力を安定して負担し、木材には引張力の負担がかからないため、ドリフトピン工法のように急激に耐力が落ちることはなく、耐力が保たれるという。地震時には、建物が高層になるほど地震力が大きくなり木材に圧縮力がかかりやすいため、木鋼組子は中高層建築に効果的な耐震要素として開発された。建築基準法により、高い耐震性能が必要となる建物では、木鋼組子の設置数を増やすことで耐震性能を確保できる仕組みだ。

(つづく)

【石井 ゆかり】

(中)

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