2024年04月20日( 土 )

木造×鉄骨造 の13階建ビルにハイブリッド耐震システム「木鋼組子(モッコウクミコ)」(後)

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木造らしさを伝える

 「木鋼組子は、ベースを組み合わせることでデザインに柔軟性があるため、オフィスや商業施設、学校、市庁舎などの多くの建物で活用できる可能性がある」(渡邉氏)。木材を現しにできる低層建築でも使用できるが、S造やRC造では木材を現しにでき、施主や利用者に木造らしさを伝えられる。とはいえ、木材を外装に使用すると、長持ちさせる維持管理が必要で、高層建築ではメンテナンスコストが負担となる。木鋼組子は、建物内側の現しや低層部分とする施工例が増えそうだ。

 一般的に、木造はS造に比べてコストが高くなる。木鋼組子も従来工法のS造と比べるとコストアップにはなるが、鉄鋼を使用することで、コストの高い木造の大断面集成材が不要となるため、木造とS造それぞれのメリットを生かすことができる。渡邉氏は「次のステップは、設計方法や使用方法をさらに研究開発し、コストダウンできる方法を検証すること」という。木鋼組子は一般流通材を利用するため、材料納期が数カ月かかるS造より工期も短くなることもメリットだ。

SDGsやESG投資にも

 前田建設工業は、「SDGsやESG投資が注目されるなか、本計画は、都心部で木材を使った建物として先駆けとなる点もアピールポイントとなる」と意気込む。今年8月に不動産大手のヒューリック(株)が環境目標連動の社債を発行した流れを受けて、「どのように投資家にアピールするか」という議論が活発になっているという。

 前田建設工業は、「住田町役場庁舎」(岩手県、純木造)以降、本格的に大規模木造建築に取り組んできた。窪崎氏は、「中高層建築では、木鋼組子をS造と木造、RC造と木造を組み合わせるラインナップの1つとして活用していきたい。とくに壁など目に見える部分に木材を使うと、利用者に届きやすくなり、木造の普及にもつながるのではないか」と語る。

 構造材に使った場合の木材消費量は、床面積1m2あたり約0.25m3。仕上げ材に使った場合は1m2あたり0.03m3と、構造材の方がはるかに多いと言われているが、木造のみにこだわることよりも、木材利用の普及を優先させたいという考えだ。

 同計画では、木材を現しにすることで木材の温もりを伝え、オフィス環境の向上を図っているが、前田建設工業が設計施工した「大槌町文化交流センター『おしゃっち』(岩手県、木造)」では、地場産の木材を現しにすることで、木材の温もりを伝え、東日本大震災の津波による被災者が少しでも安らぎが感じられるように配慮した空間が実現している。建築で木材を現しにできることで、過ごしやすい空間づくりが広がることも期待されている。

前田建設工業(株)
営業第3部第2グループ 主査 福田 大士 氏(左)
建築事業本部構造設計部構造第2グループ チーフエンジニア 渡邉 義隆 氏(中)
先進設計開発部先進第1グループ グループ長 窪崎 小巻 氏(右)

(了)

【石井 ゆかり】

(中)

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