2024年04月20日( 土 )

「デジタル庁が目指すべき“人間中心”のAI戦略とサイバーテロ対策」(3)

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国際政治経済学者 浜田 和幸

 アメリカでは大統領選挙が終盤を迎えている。近年、毎回のように話題になるのは、外部勢力の介入である。前回の2016年には、ロシアのサイバー部隊が暗躍し、民主党のヒラリー・クリントン陣営から情報を盗み、トランプ候補に有利となる情報操作を展開したという「ロシア介入疑惑」が沸き起こった。今回もロシアに限らず、中国や北朝鮮までもがネット上でさまざまな偽情報を流しているようだ。

国境の消滅も

 菅義偉新総理が打ち出した新たな政策の目玉が「デジタル社会の実現を促進する司令塔」と位置付けられるデジタル庁の新設である。その実現に向けて、「21世紀の石油」とも呼ばれる“データ”の活用を可能にする「データ戦略」を2021年に向けてまとめるという。

 安倍政権の時代から、内閣府では「未来投資戦略2018」を作成し、次世代モビリティとヘルスケア・システムの確立に向けた取り組みを始めていた。世界が注目するように、日本は「課題先進国」として、少子高齢化、地方衰退、社会保障費の拡大による財政悪化、400万社の中小企業の後継者不足、食料・エネルギー問題、頻度と規模の増す自然災害など、さまざまな課題への対応を迫られているからだ。

 新しい時代に相応しい国家戦略として「Society 5.0」(第4次産業革命)実現への大号令をかけることになった。その牽引車が「社会基盤や行政サービスのデジタル化」というわけである。菅政権ではデジタル化によって集積される個人や企業の各種データを活用し、新たなサービスや社会経済活動の創出につなげる考えのようだ。

 過去の歴史を振り返れば、人類は「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」と段階的な進歩を遂げてきた。そして、次なる時代のカギとなるコンセプトはデータを最大限に活かした「超スマートデジタル社会」といえるだろう。要は、「誰もが、いつでもどこでも、安心して、自然と共生しながら、価値を生み出す人間中心社会」を目指そうということに他ならない。

 さらには、国際社会との調和という観点も重要視されねばなるまい。国連が採択した「SDGs」を支援することで、「価値創造」「多様性」「分散」「強靭」「持続可能性・自然共生」といった普遍的で国際的な価値を追求しようとする新たな試みに進化させることが求められる。今後、日本が追求すべき目標は日本発の「Society 5.0」で実証する課題解決ノウハウを世界と共有しようということでなければならない。

 “地域社会”の場合は、行政サービスと民間サービスの連携が不可欠となり、“国”の場合には国土の分散化・多様化が望まれる。要は、個人から国家に至るまで、すべてがデータと技術で変わる時代に突入することは不可避であるため、その先回りをして、新たな人間や組織の能力を飛躍、向上させようという未来志向の政策が求められるというわけだ。日本政府の新たな取り組みがどのような成果を生むのか、期待値は高い。

 その際、欠かせない視点は「デジタル技術とデータ活用をいかに融合させるか」という点であろう。確かに、現時点でも個人の生活、行政、産業構造、雇用環境、国際関係は激変に見舞われている。個人、企業、都市のコネクティビティが飛躍的に高まってきており、このままでは国境の消滅もあり得る。国家の基盤そのものが揺らぎ始めているからだ。菅総理にそうした時代認識や柔軟な発想があるだろうか。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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