2024年04月20日( 土 )

西友売却に見る小売のパラダイムシフト(前)

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 かねてから売却が噂されていた西友の売却が現実になった。米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が65%、すでに西友とネットスーパーを共同運営している楽天が20%の株式を引き受ける。ウォルマートにとって、10月のイギリスの子会社アズダの売却に続く矢継ぎ早の海外店舗の見直しだ。今後も一部の株式は保持し、商品供給などに関わるというものの、実質は日本からの撤退である。

ウォルマートの海外事業頓挫

 2002年に西友との資本提携後、2008年には完全子会社にしたウォルマートだが、今日まで業績の改善は遅々として進まなかった。7,000億円を超える売上高にも関わらず、最終利益が赤字続きというのが実態だ。

 イギリス、日本と大型買収でその地への進出を試みたウォルマートだが、相次いで頓挫した。その理由は消費スタイルの文化の違いに対応できなかったことだ。取扱商品、店舗規模、嗜好性などは国によって違う。 イギリスの場合はリドルやアルディといった、ドイツ発祥の小型ディスカウントの前に一敗地にまみれたということもあるだろうが、試行錯誤を重ねても、日本市場に対応できなかったということだろう。大型什器、省力化優先の商品陳列法、過剰なアイテムの絞り込みなど、ある種の殺伐感に漂う売り場に顧客は馴染めなかった。このまま放置しても改善が見られないということが今回の決定につながったと考えられる。

 一方、流通の現場に大きな異変が起こっている。運営手法と縄張りの溶解だ。従来、小売業はより多くの店舗を展開することを戦略の柱にしてきた。しかし、多店舗出店の推進がオーバーストアという飽和状態を生んでしまった。小売業の経費はそのほとんどが固定費。そのため数の飽和が生む坪効率の低下を、経費節減で完全にカバーすることはできない。

 売上が下がれば当然経費率が上がる。経費率が上がれば安く売ることはできない。消費者がもっとも期待する価格の魅力を提供できなくなり、さらなる業績減につながる。そうなると顧客のための投資や除却損が発生する不採算店舗の閉鎖もできなくなり、その先は倒産となる。そうしたなかで新た生まれるのは「よそ者・若者・変わり者」の企業、つまり門外漢の台頭である。

アマゾンというエイリアン

 売却をもう1つの目で見ると、見るとアマゾンを意識した投資戦略の転換だ。市場の飽和に加えて、オンラインストアの登場で、今や業態にかかわらず実店舗の閉鎖ラッシュである。いかにウォルマートといえども先の見えない西友の経営を悠長に続けることはできない。数千億円という損失覚悟で不採算という病巣を切らなければその先に待つのは緩慢な死だ。それを考えると数千億円の損失は悪くない投資でもある。

 ガレージを拠点に、オンラインによる書籍販売からスタートしたアマゾンは今や小売だけでなくクラウドなど複数の事業体を有する巨大企業だ。主業の小売ではオンラインという無店舗で今日の繁栄を手にしたにもかかわらず、ホールフーズの買収やアマゾンゴー、アマゾンフレッシュといったリアル店舗にも積極的に取り組む。ウォルマートにとってまさにエイリアンとの戦いだ。ある部分、アマゾンと同じ土俵に立たなければその戦いには勝てない。当然、投資も店舗建設以外にシフトすることになる。

(つづく)

【神戸 彲】

(後)

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