2024年04月19日( 金 )

【流域治水を考える】流域治水への転換とは何を意味するのか?(後)

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議論は最適なダム選びへ

 今年10月、球磨川で流域治水協議会が設置され、議論がスタートした。新たな会議体に場所を移したとしても、球磨川流域の治水を考えるうえで、川辺川ダムが焦点なのは変わりない。ただ、もはや川辺川ダムを建設するかどうか予断を許さないという状況でもない。

 すでに過去の会合で、ダムによる治水効果は高いが、ダム以外の治水対策の効果は低いことが明示されている。流域市町村に至っては、ダム建設を含めた治水対策の早期実現に関する決議も行っている。少なくとも地元行政レベルでは「ダム建設しかない」という空気が支配的なのは明らかだ。いまだに「ダム建設反対」を主張し続けているのは、市民団体など「ダム反対ありき」の特定のセクトしかいないのが現実だ。今後の流域治水の議論の軸は、ダム建設の是非ではなく、最適なダム選びへとシフトしていくと予想される。

 川辺川に最適なダムとはどういうものか。それが流水型ダム、いわゆる穴あきダムだ。堤体に穴を設けることで、平時はダムに水を貯めず、洪水時の水を貯めるダムだ。水質など河川環境などへの影響を軽減できるらしいということで、一部の流域市町村メンバーから流水型ダムを推す声が挙がっている。ダムによる川辺川の水質悪化など、河川環境への懸念を払拭できるからだ。

 かつて川辺川ダム建設がストップした際、一部の流域市町村トップなどが理由として挙げたのが、水質悪化への懸念だ。ダムができれば、河川の水量が下がって水質が悪化し、清流が失われるというものだった。この手の懸念は、一部の流域市町村の間で、いまだにくすぶり続けている。「ダムによる治水効果は疑いがない。ただ、水質悪化への懸念がある。だったら、水質への影響が少ない流水型にすれば良いじゃないか。そもそも同じ県内ですでに建設しているじゃないか」。流水型ダムをもってくると、こういうわかりやすい話になる。

 ただ、流水型ダムが環境への影響が比較的少ないとしても、堤高90m、堤頂長200m、堤体積40万m3という構造物を建設する以上、当然、環境への影響がゼロになるわけではない。この辺の是非を判断するには、専門家による科学的な検証が待たれるところだ。

地元負担で再び揉める懸念も

 仮に、川辺川上流に流水型ダムをつくることを軸に、球磨川の流域治水プロジェクトが取りまとめられたとしよう。その場合、気になるのは、建設にかかるコストだ。

 既存の川辺川ダム建設計画を復活させるのであれば、すでに多くの事業が完了しているので、2,000億円程度の追加投資でできるようだが、流水型ダムへの変更によって、コストが増加する可能性は高い。財務省が首をタテに振るのか、流域自治体にこの負担増を受け入れる覚悟があるのか。総論にはしぶしぶ賛成するが、負担増になるなら、反対に回る自治体が出てこないとも限らない。流域治水プロジェクトはできたものの、地元負担で揉めて、事業が前に進まないという事態も考えられなくはない。この点、何しろ過去に実績がある。

 いつ完成するのかも気になるところだ。これも既存のダム計画であれば、早ければ数年で完成する見込みが立ちそうだが、流水型に変更する場合は、調査の段階からすべてやり直しになる可能性がある。少なくとも完成まで10年、ヘタをすればそれ以上の年月がかかる可能性もある。そうなると、流域治水が整う前に、再び水害に見舞われるリスクも高くなる。これも、つい数カ月前に実際に経験したことだ。

 ところで、報道によれば、蒲島知事は川辺川ダムを容認し、流水型ダムの建設を要望する方針らしい。これも報道ベースだが、国土交通省も、流水型ダムによる川辺川ダム建設に前向きらしい。事実だとすれば、ダム以外に有効な治水対策がない以上、唯一残されたまともな選択だといえる。12年前に同じ人物が真逆の判断を下したことを考えれば、隔世の感がある。流水型ダムでの建設再開が決まれば、球磨川の流域治水をめぐる議論も、現実味を増し(生々しさも増すだろうが…)、一気に加速することが期待される。

 流域治水プロジェクト策定まで、約4カ月。決して十分な時間とはいえないが、約12年間にわたる“あさっての方向”を向いたムダな議論と比べれば、より有意義な議論が聞けそうだ。蒲島知事の言動を含め、引き続きこれらの動きを追っていきたい。

(了)

【大石 恭正】

(中)

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