2024年04月26日( 金 )

林眞須美死刑囚に訴えられた鑑定医 週刊ポストを巻き込み、不穏な事態に(後)

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 1998年にヒ素中毒で67人が死傷した和歌山カレー事件で、無実を訴えながら死刑確定した林真須美死刑囚(59)が鑑定医を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こしていたことがわかった。訴訟はすでに林死刑囚の敗訴で終結しているが、『週刊ポスト』が訴訟での鑑定医の主張を「虚偽」だと伝えたに等しい報道をしており、不穏な事態となっている。

ポストの記事に否定されていた鑑定医の主張

 筆者の手元には、1冊の週刊誌がある。『週刊ポスト』(小学館)の2015年9月11日号だ。その119~120ページの「著者に訊け!」というコーナーでは、帚木氏が当時出版したばかりの『悲素』に関してインタビューを受け、次のように語ったと書かれている。

帚木氏が「事実ではありません」と回答した週刊ポスト2015年9月11日号の記事
帚木氏が「事実ではありません」と回答した
週刊ポスト2015年9月11日号の記事

「福岡県中間市内に精神科のクリニックを開く作家・帚木蓬生氏が、地元の医師仲間でカレー事件やサリン事件にも捜査協力した井上尚英九州大学名誉教授から鑑定資料一式を託されたのは3年前。『知られていない事実があまりに多すぎる』ことに驚いた氏は、井上氏をモデルにした『沢井直尚』を主人公に、同事件や裁判の経緯を克明に再現する」

悲素 一読しておわかりの通り、この記事は、「『悲素』の原稿作成や出版に一切関わっておらず、著者から取材を受けたこともない」という井上氏の答弁書の主張を完全に否定している。言いかえると、記事の内容が事実ならば、井上氏は林死刑囚との訴訟で虚偽の主張をしたことになる。そもそも、鑑定医が鑑定資料を漏洩させれば、犯罪(秘密漏示罪)として処罰される可能性もあり、この記事は帚木氏が医師仲間である井上氏の犯罪の疑いを暴露した内容ともいえる。

 しかし、逆に井上氏の答弁書の主張が事実ならば、この『週刊ポスト』の記事が虚偽だったことになり、井上氏は自分を犯罪被疑者扱いしたに等しいこの記事を到底容認できないはずだ。

インタビューを受けた作家はポストの記事を否定したが…

 事実関係を確認すべく、まずは井上氏に手紙で取材を申し入れた。しかし11月20日、回答をもらうために新王寺病院に電話したところ、神経内科の女性事務員が電話口で要領を得ない対応を続けた末、最終的に「(井上氏は)取材は一切、お断りしているということです」と回答した。

 そこで、今度は帚木氏に手紙で取材を申し入れた。質問事項は、以下の2点。

 (1)週刊ポストのインタビュー記事で、井上氏から鑑定資料一式を託されたのをきっかけに『悲素』を執筆したかのように説明しているのは、事実か否か。
 (2)そもそも、井上氏から鑑定資料一式を託されたのは、事実か否か。

 帚木氏からは同24日、ファックスで次のような回答があった。

「お尋ねの件、1、2とも事実ではありません」

 つまり、帚木氏は週刊ポストの記事が「虚偽」だと言ったも同然だ。

 さらに同28日、井上氏から手紙が届き(消印は同27日)、改めて次のような回答があった。

「お手紙を拝受しましたが、この件についての取材は一切お断りしています。申し訳ありませんが、今後も取材には一切応じかねますので、ご了解ください」

 新王子病院神経内科の女性事務員が電話口で伝えてきた回答とは、内容が異なっている。事態が難しい問題をはらんでいることをうかがわせた。

 一方、井上氏と帚木氏の2人から記事が虚偽だと言われたに等しい『週刊ポスト』編集部にも取材を申し入れたところ、同30日、次のような回答があった。

「従前より、当社では取材の過程についてはお答えしておりません。よって片岡さんのご質問にはお答えできません。何卒ご了承ください」

 一体、真実はどこにあるのか。ちなみに、問題になった『週刊ポスト』の記事は、現在も小学館のポスト・セブン局が運営するインターネットサイト『NEWSポストセブン』に掲載されている。井上氏が犯罪をはたらいた疑いや、訴訟で虚偽の主張をしたことが医師仲間の帚木氏によって暴露されたに等しい内容の記事が、今も全世界に向けて配信されているわけだ。

 井上氏と帚木氏はこの記事について、「事実ではない」と胸を張っていえるなら、『週刊ポスト』と小学館に対し、何らかの措置を講じるべきだ。

問題の記事ではネットでも配信されている

(了)

【片岡 健】

(前)

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