2024年05月03日( 金 )

中国経済新聞に学ぶ~ジャック・マー氏の「10件の罪」(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 深夜11時、アリババ集団の創業者のジャック・マー(馬雲)氏は、まだ中国の「英雄」であった。それが午前0時を過ぎると「厄介者」になってしまった。

 2020年の末、中国で、思いがけない事態が発生したのである。

 12月11日、中国共産党中央政治局が、翌年の経済政策に関する会議を行った。

 年末に行われるこの会議は、年の瀬ということもあり、時を継ぐ大きな意味をもち、「羅針盤」のようなもので、ハイレベルな角度から翌年の経済政策を見つめる大切な場である。ここでかなり重大な法案が示された。それは、「独占禁止の強化、むやみな資本拡大の防止」であった。

 先の12月8日、中国銀行保険監督管理委員会の郭樹清主席が、シンガポールでのフィンテック関連イベントで演説し、「技術と金融」について改めて声を発した。「『大きすぎてつぶせない』問題に留意すべきだ。少数の会社が小額決済の市場で中心的な地位にあり、一般市民の利益に関わり、大切な金融インフラを備えている。一部の大手ハイテク企業が金融やテクノロジー事業でセクター横断的な運営をしている。新たなシステミックリスクを防ぐために、こうした複雑化したリスクの波及を密接に追跡し、時宜にかなう的を絞った措置をとることが必要だ」と述べた。

 郭主席は、ジャック・マー氏、および彼が設立したアリババを名指しこそしなかったが、この話はマー氏に向けたものであることは、中国人なら誰でもわかる。

 中国経済はここ10年間、下押し圧力に面しているなか、Eコマースを代表とするインターネットビジネスが花盛りであり、消費やビジネスモデルに莫大な影響を与えた。これは伸び悩む中国経済における数少ない「見どころ」であり、国の政策的支援におけるモデル産業になった上、マー氏は中国ECを代表する存在になった。アリババは中国最大の小売会社に、そしてマー氏は中国の稼ぎ頭になったのである。

 しかし、Eコマースやその関連産業が急成長するなか、深刻なマイナス面も発生している。その影響が広がり、独占状態になると、「罪づくり」になる。国の経済や金融面に悪影響が生じるからである。

 そう、マー氏は「10件の罪」を犯したのだ。

まず1つ目は独占的地位

 中国は2007年に「独占禁止法」を打ち出したが、インターネットビジネスは実際には制約を受けていない。中国のEC大手は、経営手法や市場への影響力から見て、すでに事実上の独占状態にある。

 これによる影響は中小のEC業者だけでなく、ビジネス体系全体にもおよぶ。独禁法は社会の公平性や繁栄を確保するためのものであるが、Eコマースについては不徹底である。マー氏のアリババは、そこを突いて事業のテリトリーを築いたのである。

2つ目は商業不動産の崩壊

 都市の整備における大切な構成要素で、効率化のかなめでもある商業不動産であるが、その値打ちや核心はビジネスが頼りである。ところがマー氏率いるECの急成長で、ネットショッピングの利用者が急増し、リアルビジネスが大きく後退して、商業不動産が強烈なあおりを食ってしまう。この結果、店舗などへの投資事業が廃れてしまった。今、中国では、都市の中心部にある大量の物件で担い手や消費者がいない、という状態が広がっている。そう、「都市の空洞」となり、都市体系がいびつなものになってしまっている。

3つ目は社会保障体制への影響

 社会保障とは政府が提供するものだけでなく、個人の住宅や購入店舗も含め、老後を支えることができるものはみな、広い意味でその一環と見なされる。中国は、社会保障面で莫大な負債を抱えているなか、「老後のための店購入」といった習慣が重みを増しているが、今は店の経営が困難で、こうした希望も失われつつある。このため、巨費をかけて社会保障体制を立て直さなくてはいけない。


中国経済新聞を読もう

<連絡先>
(株)アジア通信社
所在地:〒107-0052 東京都港区赤坂9-1-7
TEL:03-5413-7010
FAX:03-5413-0308
E-mail:china@asiahp.net
URL:http://china-keizai-shinbun.com

(後)

関連記事