2024年05月02日( 木 )

中国経済新聞に学ぶ~ジャック・マー氏の「10件の罪」(後)

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4つ目はまちづくりの乱れ

 都市の経済や成長の有り様を見ると、街が繁栄したうえで都市が繁栄し、その街は店で成り立ち、ビジネスは消費者により支えられているものである。しかし今は、ECの影響を受け閉店が後を絶たず、飲食業などリアルビジネスが大変な苦境に陥っている。従来のまちづくりの体系が壊されつつあるのだ。

5つ目は税収への影響

 都市部は、不動産やビジネスが栄えることで税収が保たれ、地元政府の運営が成り立つ。ところが、数千年にわたり存続してきたこの仕組みがECによりピンチを迎えている。バーチャルな存在であるビジネスは納税の徹底化が難しく、EC業者による納税額が膨大な 取引額における申告漏れ分を埋め切れない。税収面(とくに消費に関する部分)はこれからも多大な影響を受けるだろう。

6つ目は雇用問題

 アリババは、ECの普及により大学生など若者向けに数百万人分の雇用が生まれ、直接的には1,500万人、また間接的には3,000万人以上の雇用を生むと称している。

尊大だったマー氏が今、謙虚に

 しかしEC業務に適しているのは若者であり、これまでのビジネス体系で多数を占めている年長者はパソコン頼みの事業者になりきれず、店仕舞いするしかないのだ。ECの成長で大量のリアルビジネスが崩壊し、就職口が大変狭まっている。

7つ目は模造品問題

 これはマー氏、そしてアリババへの非難が一段と高まっているもので、会社として改善に努めているとはいうが、適切な解決策はとれず、常に危険な取引が存している。つまり、ECはこうした危険な取引を極めて行いやすい手段になっているのだ。同じような問題を抱えているアマゾンは、アリババよりもずっと厳しい姿勢で対処している。影響力のある会社からすれば、社会への責任感は主観的な意味での「不正排除」、そして「悪」をできるだけ抑制する姿勢の表れである。

8つ目は政策面における乱れ

 ネットのシステムはみなバーチャルかつ技術的な環境下にあり、さまざまな問題を適切に発見、あるいは対処する策がなく、常に後手後手の対策になってしまい、全体的に整合性を欠いたものになっている。このようなマイナス面は、ネットの取引といったレベルを超え、社会レベルで影響が生じている。

9つ目は物流コスト

 社会全体そして一般庶民の暮らし、そして国のインフラにも多大な影響のあるものだが、ECモデルが普及するなか、多くの商品が店舗ではなく倉庫―物流体制で流れている。このため、卸売業務型である集中式の物流がすべて分散型の小売方式に変わり、結果として社会全体で物流コストが急増し、またインフラ投資も大幅に増え、これがほかの業界にも波及して、中国の製造業における競争力にも響いている。

最後は金融秩序の乱れ

キャッシュレス決済 イメージ マー氏が築き上げたデジタル決済の「アリペイ」により、中国では紙幣や銀行における一般的な取引がほとんど消滅し、クレジットカードの取引量が激減した。また同じくマー氏による別の小額融資会社「アントフィナンシャル」が、利用者3億人を数える業界最大手になっている。このため中国の金融界に多大なダメージが加わり、国有銀行にとって脅威の存在になっている。

 以上の「10件の罪」は、中国のインターネット取引を代表する人物であるマー氏についての指摘であるが、実際には中国のネット取引業者全体について述べたものである。このような事業者が現れ、爆発的に成長したことは、良くも悪くも甚大な影響およぼしているのだ。よって中国政府は、マー氏やアリババヘの対処方法として、穏やかな慎重策を講じている。そうでなければ、中国経済は不必要なあおりを受けることになり、民間の企業家の自信も崩れてしまうだろう。


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