2024年04月28日( 日 )

【凡学一生の優しい法律学】真の民主国家を目指して(4)

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9. 法性決定という概念

 英語ではクオリフィケーシオン(qualification)と表現され、日本語には「性質決定」とか「法性決定」と翻訳されている法律概念がある。法的議論の前提として対象となる事実の法的な性質を、従来の構築された法律概念に当てはめて考えることだ。

 菅総理大臣が学術会議の推薦を無視して任命をしなかった行為事実について、法的には何と評価される行為か、ということが問題である。

 たとえば、総理大臣の行為であっても、ただの窃盗行為であれば私人の犯罪行為と認定される。今回の菅総理大臣の行為は法律に基づく、総理大臣の業務としての行為であるため、業務執行(公務)であり一定の対人的法的効果があるため、行政行為・行政処分行為である(判例)。

 この行政行為によって、法的侵害を受けた人間は法の定める方式・規定によって、その是正や発生した損害の賠償・補てんを求めることができる。このように法性決定をすれば、国会で違法犯罪行為の当否を議論することがいかに無意味であり、少なくとも根本的解決にならないことが理解できるはずである。

 とくに議院内閣制の国会においては、国会の多数派の決定した総理大臣の行為について是正させる権能も損害の賠償を補てんする機能もないことは明白である。次の作業は、菅総理大臣の行為によって、被害を受けた者は誰か、それはどのような法的利益の侵害であるかを探求することだ。

 法的利益の侵害を知るためには、国会議員の法的地位の確認が必要である。その理由は、法的地位にともなう権利義務の侵害という法的構成が必要となるためだ。

 国会議員は特別職公務員であり、その責任業務は国会における立法作業のほか、他の国権である行政権や司法権の執行についての監視業務であり、憲法で規定された国政調査権の規定によって明白に示されている。

 この地位を法的に表現すると、国会議員は独任制の国政監視機関(官)ということである。このことは裁判官が基本的には独任制の司法権執行機関(官)であることや検察官が独任制の刑事訴追権の執行機関(官)であると理解されていることと同様の意味である。

 これは、私法領域で会社取締役の1人ひとりが会社業務について単独に不正について訴求する権利が認められていることを考えると、代理人の基本的権能と理解できる。

 そこで、国会議員は国民から付託された公正な国権の執行を担保する権能(代理権)が侵害されたため、その違法行為の指し止めを請求することができる、と法律構成できる。また、国会議員としての業務の行使を不当に妨害されたとして、刑法上の業務妨害罪の告訴権者となることができる。これらの争訟の提起が功を奏するものであるか否かということが、日本の民主主義の試金石となるのも当然である。

(つづく)

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