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2021年01月12日 11:20

「人間の経済」を基軸に、環境問題を考察する!(1)

京都大学名誉教授 松下 和夫 氏

 2020年は、新型コロナ騒動一色に塗りつぶされた1年であったと言っても過言ではない。「地球という有限の閉鎖体系のなかでは、無限の経済成長は不可能である」と経済学者のケネス・E・ボールディング(当時のアメリカ経済学会会長)が警告したが、ほとんどの国の政府や指導者は「経済成長がすべての問題を解決する」との神話を信奉してきた。
 コロナ禍が起こった今こそ、人類は考えを改めることができるのだろうか。京都大学名誉教授・(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェローの松下和夫氏に聞いた。

人間と野生動物の距離が近づきすぎたことが一因

 ――「新型コロナ騒動」を俯瞰してどのようなことがいえるでしょうか。

京都大学名誉教授 松下 和夫 氏
京都大学名誉教授
松下 和夫 氏

 松下 疫学や生態学の専門家に意見をお聞きした結果、自然が破壊されて、人間と野生動物の距離が近づきすぎたことに今回のコロナ禍の一因があると考えています。そして、経済活動のグローバル化が進み、世界のいたるところに人間が移動し、物資が輸送されることにより、コロナ禍は世界中に拡大していきました。

 人間と野生動物は本来、住みわけができていました。しかし、人間が無秩序に森林、熱帯雨林を伐採などして自然を破壊したため、野生動物は人間が住んでいる領域まで出てこざる得なくなり、野生動物がもっているウイルスに人間が感染する機会が増えています。また、発展途上国では、野生動物を自らのタンパク質源として捕獲するようになり、市場取引も行われています。このように人間と野生動物の間に緩衝地帯がなくなっているのです。

 コロナ禍で見られたもう1つの特徴は、社会のもっとも弱い層、たとえば、疾病をもっている人、高齢者、貧しい人たちなどにその被害が集中したことです。感染拡大を抑える政府の対策は、科学的知見の面でも、疫学や公衆衛生としての医療の面でも、立ち遅れており、満足のいくものではなかったという印象をもっています。

 私たちには、地球環境を考慮した、節度ある経済活動が要求されているのだと感じています。

環境保全と同時に政治・新経済成長戦略であるEUグリーンディール

 ――新型コロナ後の経済復興としては、「グリーンリカバリー(緑の復興)」と「ビルドバックベター(より良い復興)」が世界的に認知されています。まず、その先頭を走るEUの動きを教えてください。

 松下 コロナ禍の対策を一時的現象で終わせることなく、持続可能で健全な経済につくり変えようという議論が世界的に広がっています。

 地球環境を考慮した「グリーン社会の実現」に関しては、EU(欧州連合)がもっとも進んだ取り組みをしています。EUは19年12月に、ドイツ人女性のフォン・デア・ライアン新委員長の下、「欧州のグリーンディール」を公表しました。これは環境保全対策であると同時に政治戦略であり、新しいかたちの経済成長戦略でもあります。

過去最大の予算1兆8,243億ユーロの30%以上を気候変動対策に

 松下 欧州のグリーンディールは、経済や生産・消費活動を地球と調和させ、温室効果ガス排出量の削減(30年に55%削減、50年に実質ゼロ)に努めるとともに、雇用創出とイノベーションを促進する成長戦略です。

 その資金調達に関して、EU首脳会議が20年7月21日に開催され、「次世代EU」復興基金の設立が合意され、通常のEU予算とは別枠で7,500億ユーロ(約92兆円)を市場から共同債の発行により調達することが可能となりました。EU次期7カ年である21~27年の中期予算案(約1兆743億ユーロ)と合わせると、過去最大の1兆8,243億ユーロ(約224兆円)の規模になります。

 このうち、少なくとも30%は気候変動対策に充てられ、再生可能エネルギー、省エネ、水素などクリーンエネルギーへの資金提供、電気自動車の販売やインフラへの支援などが含まれています。EU諸国は20年春以降、コロナの被害がとても大きかったのですが、「欧州のグリーンディール」の取り組み、すなわち「脱炭素社会」への歩みでは、一歩も後退していません。

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
松下和夫氏
(まつした・かずお)
 京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェロー、国際アジア共同体学会理事長、日本GNH学会会長。
 1948年徳島県生まれ。71年東京大学経済学部卒。76年ジョンズホプキンズ大学大学院政治経済学科修了(修士)。72年環境省(旧・環境庁)入省、以後OECD環境局、国連地球サミット(UNCED)事務局(上級環境計画官)などを歴任。2001年京都大学大学院地球環境学堂教授。持続可能な発展論、環境ガバナンス論、気候変動政策・生物多様性政策・地域環境政策などを研究。
 主要著書に、『東アジア連携の道をひらく 脱炭素・エネルギー・食料』(花伝社)、『自分が変わった方がお得という考え方』(共著 中央公論社)、『地球環境学への旅』(文化科学高等研究院出版局)、『環境政策学のすすめ』(丸善)、『環境ガバナンス論』(編著 京都大学学術出版会)、『環境ガバナンス(市民、企業、自治体、政府の役割)』(岩波書店)、『環境政治入門』(平凡社)など多数。監訳にR・E・ソーニア/R・A・メガンク編『グローバル環境ガバナンス事典』(明石書店)、ロバート・ワトソン『環境と開発への提言』(東京大学出版会)、レスター・R・ブラウン『地球白書』(ワールドウォッチジャパン)など多数。

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