2024年04月19日( 金 )

被災者棄てて どこが復興五輪

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を抜粋して紹介する。今回は、「五輪開催推進論は国民のためのものでない。巨大利権を追求するためだけに五輪開催強行が叫ばれている」と訴えた1月12日付の記事を紹介する。


コロナ感染拡大を受けて「緊急事態宣言」が発出された。
GoToで感染拡大に全力を挙げて、感染が爆発したところで「緊急事態宣言」発出。
究極のマッチポンプ。

感染拡大が日本全国に行き渡ったことはGoTo抜きには理解不能。
11月3連休前にGoTo見直しの提言が示された。
「英断を心からお願いする」とまで言われた。

菅義偉首相はこの提言を跳ねのけて感染拡大推進に突き進んだ。
その成果としての感染爆発だ。
しかし、発出されている緊急事態宣言はコロナ感染症に関するものだけではない。
「原子力緊急事態宣言」も発出されたままだ。

この事実を知らない人が多い。

2011年3月11日午後2時46分、宮城県牡鹿半島の東南東沖130kmの海底を震源として、東北地方太平洋沖地震が発生した。
地震の規模は、日本における観測史上最大のマグニチュード9.0と発表された。

同日、原子力緊急事態宣言が発令された。

「平成23年(2011年)16時36分、東京電力(株)福島第一原子力発電所において、原子力災害対策特別措置法第15条1項2号の規定に該当する事象が発生し、原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を実施する必要があると認められたため、同条の規定に基づき、原子力緊急事態宣言を発する」

これが「原子力緊急事態宣言」の全文。

当時の枝野幸男官房長官は、
「原子炉そのものにいま問題があるわけではございません。
万が一の場合の影響が激しいものですから、万全を期すということで、緊急事態宣言を発令して、最大限の万全の対応をとろうということでございます。
放射能が現に漏れているとか、現に漏れるような状況になっているということではございません」
と述べたが、すでにこのとき、福島第一原発は全署停電=ステーションブラックアウトに陥っていた。

原子炉が電源を喪失すれば、原子炉を冷却する装置が作動しなくなる。
原子炉内の水分が完全に蒸発し、核燃料がむき出しの状態になれば、燃料が溶融を始めるのは時間の問題。

実際に福島第1原発はステーションブラックアウトにより、1、3、4号機の原子炉建屋で相次いで水素爆発が発生し、大量の放射性物質が外部に放出する人類史上最悪レベルの放射能汚染災害を生じた。

福島第1原発では、地震発生から2時間も経過していない午後3時42分に原子力安全・保安院に対して、東京電力から福島第一原発1、2号機で炉心を冷やす緊急炉心冷却装置(ECCS)が稼動しなくなったとの報告が入っている。

NHKは11年3月12日正午のニュース放送で次のように放送した。

https://www.YouTube.com/watchm3v=WHUyLdPhcbg

「原子力発電所に関する情報です。
えー、原子力安全保安院などによりますと、福島第一原子力発電所一号機では、原子炉を冷やす水の高さが下がり、午前11時20分現在で、核燃料棒を束ねた燃料集合体が水面の上、最大で90㎝ほど露出する危険な状態になったということです。
このため消火用に貯めていた水など、およそ2万7000Lを仮設のポンプなどを使って水の高さをあげるための作業を行っているということです。
この情報を繰り返します」

この原稿を読み上げた後、約7秒間の沈黙があり、横から、「ちょっとね、いまの原稿使っちゃいけないんだって」という声が入った。

アナウンサーは、当初の原稿を繰り返さずに別の原稿を読み上げた。
原子炉メルトダウンの事実が3月12日から隠蔽された。

一般公衆の被ばく線量上限は、原子炉など規制法および放射線障害防止法に基づいて、年間1ミリシーベルトと定められている。

ところが、福島原発周辺の原発事故被災者に対して安倍内閣、菅内閣は、15年6月12日の閣議決定で「空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること」を避難措置解除の要件とした。

年間線量20ミリシーベルトの地域に住民を居住させることを決めたのだ。
これは「原子力緊急事態宣言」下で初めて可能になる措置だ。
コロナの緊急事態宣言、放射能の緊急事態宣言を発出しながら、五輪騒ぎに興じることは不見識だ。

「復興五輪」と叫ばれてきたが意味不明。
1年間に20ミリシーベルトという被曝量は、「放射線業務従事者」に対して国が初めて許した被曝の限度。

「放射線業務従事者」だけが「放射線管理区域」への立ち入りを許される。
この「放射線管理区域」において許容される放射線被曝上限が年間20ミリシーベルト。

その「放射線管理区域」においては、放射線業務従事者であっても、水を飲むことも食べ物を食べることも禁じられている。
寝ることも禁じられ、トイレすらなく、排せつもできない。

小出裕章氏は『フクシマ事故と東京オリンピック【7カ国語対応】』“The disaster in Fukushima and the 2020 Tokyo Olympics”(小出裕章著、径書房)で次のように指摘する。

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「国は、今は緊急事態だとして、従来の法令を反ゆえにし、その汚染地帯に数百万人の人を棄て、そこで生活するように強いた」

政府は日本の一般市民に年間線量20ミリシーベルトの地点への居住を強制している。
年間線量が20ミリシーベルトを下回れば、避難措置を解除し、一切の支援を行わないことにした。

小出氏はさらに続ける。

「筆舌に尽くしがたい被害と被害者が生まれた。
一方、原発の破局的事故は決して起こらないと嘘をついてきた国や東京電力は、誰1人として責任を取ろうとしないし、処罰もされていない。
絶大な権力を持つ彼らは、教育とマスコミを使ってフクシマ事故を忘れさせる作戦に出た。
そして、東京オリンピックのお祭り騒ぎに国民の目を集めることで、フクシマ事故をなきものし、一度は止まった原発を再稼働させようとしている」

このような背徳の五輪があるだろうか。
コロナの前に、放射能で五輪は容認されない。

政府は原発事故の被災者に対し、「原子力緊急事態」という特殊な状況を維持することで、年間線量上限1ミリシーベルトという法定値を無効にして、年間線量20ミリシーベルトの土地への居住を強制している。

福島の人々を棄て去り、五輪騒ぎに興じている。
その行為のどこに「復興五輪」の名が成り立ち得るのか。

国民の命も暮らしも眼中にない。
あるのはただ、「利権」。
この2文字だけだ。

コロナの感染を収束しなければならないときに菅氏、二階氏が主導してGoToトラベルを強行推進した。
旅行業界に利益を供与して、キックバックを得るためとしか考えられない。

コロナで厳しい状況に置かれている人は多数存在する。
仕事を失い、住む場所も失っている人も少なくない。

すべての国民の命と暮らしを守るための施策はGoToでない。
一握りの宿泊業者、航空会社が法外な利益を供与され、時間と暇を持て余した富裕層がGoToの恩恵に浴する。

基礎疾患を持つ人、高齢者は、コロナの恐怖が人為的に増幅されて、巨大リスクを背負わされるだけ。
必死の思いで尽力する医療従事者、介護従事者がGoToどころの状況でないことは周知の事実。

五輪開催推進論は国民のためのものでない。
巨大利権を追求するためだけに五輪開催強行が叫ばれている。
国民の利益、国民の幸福という原点が完全に見失われている。
五輪を中止し、GoToを中止し、真摯に国民の命と暮らしを守る施策に全精力を注ぐべきだ。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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