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2021年01月19日 07:00

電気自動車時代の本命「全固体電池」は、電池業界のゲームチェンジャーになるのか?(後)

日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 新型コロナウイルス感染拡大で、自動車の販売台数が落ち込むなか、電気自動車市場の成長が続いている。外出規制などで自動車の販売が鈍化するのは、当然の結果である一方、世界の電気自動車の販売台数は、コロナショックで一時的に減少したものの、昨年7月以降には需要が回復して、過去最高の月間販売台数を更新。
 電気自動車の性能を左右する「リチウムイオン電池」のもつ限界を乗り超えるため、「全固体電池」の開発が進む。

世界で開発競争が加速

 現在のリチウムイオン電池の性能では、既存の内燃機関の自動車(ガソリン車やディーゼル車)を代替するのは難しいという指摘もあり、電気自動車時代の本命と見なされている全固体電池。世界最大の自動車会社であるトヨタ自動車(株)は昨年12月、2021年の年内に全固体電池を搭載した試作車を披露すると発表した。

 ドイツのBMWも、米国のソリッドパワーと提携して、全固体電池を搭載した電気自動車を25年~26年に出荷する計画である。(株)村田製作所、(株)日立製作所、京セラ(株式)、東レ(株)、住友化学(株)、中国の電池メーカーCATLなども全固体電池の開発に取り組んでいる。

 一方、韓国企業の全固体電池の商用化は、日本や米国に比べて少し遅れを取っている。サムスンSDIは1回の充電で800kmを走行できるという全固体電池の研究成果を発表した。しかし、量産計画は27年となっている。現代自動車も全固体電池に取り組んでいるが、サムスンSDI、LG化学、SKイノベーションなどの電池専業メーカーとの提携も模索している。いずれにしても、韓国の電池メーカーは、トヨタ自動車の試作車の発表予定に数年遅れて、26年前後に全固体電池を搭載した電気自動車の出荷を計画している。

 リチウムイオン電池は日本で開発されたにもかかわらず、日本企業は現在、世界市場でシェアを落とし、韓国企業と中国企業が躍進している。日本企業はこのような状況を打開し、市場シェアを急速に取り戻すため、「オールジャパン」で全固体電池の開発に臨んだという話も耳にしている。もちろん、全固体電池が量産されるまでには早くても2~3年はかかると考えられるが、全固体電池の登場により、電気自動車の電池市場に大きな変化が訪れることは間違いない。

10分間の充電で500km走行を実現

 (株)富士経済研究所は、世界の全固体電池市場規模が35年に2兆8,000億円になると予想している。全固体電池が登場すると、ガソリン車やディーゼル車に勝るとも劣らない電気自動車がようやく登場することになる。

 全固体電池になると、10分間の充電で500km走行も夢ではなくなる。加えて、電池のサイズも小さくなるため、電池が場所をあまり取らず、航続距離のみを伸ばすことができるようになる。電解質が液体から固体に変わることにより、発火のリスクが低下するなど安全性も向上し、エネルギー密度も高くなり、良いことずくめである。充電時間もリチウムイオン電池の3分の1に過ぎず、十数分で充電ができるようになる。

 ところが、全固体電池はメリットのみではなく、課題も抱えている。固体の電解質の場合、液体の電解質に比べてイオンの移動スピードが遅く、出力が弱くなり寿命も短くなるようだ。加えて、固体電池は製造技術のハードルが高く、量産に成功するのは難しいようだ。
全固体電池が試作品の製造には成功しても、量産段階でも同じように成功できるとは限らないのは、そのような理由があるためだ。

 電気自動車で世界市場をリードするテスラ自動車をはじめ、電気自動車の覇権を取りたい中国の電池メーカーや、半導体につぐ大きな市場と見なして投資を敢行する韓国の電池メーカー3社(サムスンSDI、LG化学、SKイノベーション)も、全固体電池の開発に会社の命運をかけている。

 いずれにしても、トヨタ自動車は全固体電池の開発において、もっとも進んだ会社であることは間違いない。トヨタ自動車は全固体電池関連で、1,000件以上の特許を取得済みである。トヨタ自動車が23年頃に全固体電池を搭載した電気自動車を量産できるようになったら、電気自動車市場には大きな波乱が起こるだろう。

 一方、韓国の電池メーカーは「ハイニッケル電池」の製造において市場における優位を保ちつつ、全固体電池の開発も迅速に行うという戦略で臨んでいる。全固体電池が電池業界の「ゲームチェンジャー」になるのか。その動向に注目が集まっている。

(了)

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