2024年04月20日( 土 )

【特集】これでいいのか産廃処理(2) 「正直者が馬鹿を見る」中間処理業界

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 福岡県と佐賀県の産業廃棄物処理をめぐり、不適切で違法な処理方法が横行していることがわかった。業界関係者の告発で明らかになったもので、背景には「日本一安い」とされる福岡県の処理費用の問題と、「見て見ぬふり」をする行政の怠慢、さらになれ合いが横行しがちな業界事情があるという。

〈2回目〉前回から続く。

厳密に分けられる産廃の種類

 安定型処分場で埋立できる産業廃棄物(産廃)は、“安定型5品目”と呼ばれる、「廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスくず・コンクリートくず、がれき類」など。廃棄物の性質が安定しており、有害な汚水などを生じさせないものに限られているので、処分方法は穴を掘って埋めた後に上から土を被せるだけ。処分費用も安価ですむ。

 管理型処分場には、安定型では処分できない産廃が送られる。たとえば、「廃油、紙くず、木くず、繊維くず、動物性残さ、動物のふん尿、動物の死体、燃え殻」などで、こうした廃棄物では含まれる有機物が分解されたり金属などが溶出することで、有害な汚水やガスが発生することもある。したがって環境汚染を防ぐために雨水流入防止側溝や遮水構造などが義務づけられていることが特徴だ。持ち込める産廃の条件に厳しい制限があるため、処分費用は安定型の数倍から十数倍にまでなる。

「正直者が馬鹿を見る」中間処理業界

 特集1回目でも指摘した通り、業界を縛る構造的要因のなか、本来なら管理型で処分すべき産廃が安定型処分場に持ち込まれているという「違法」「脱法」行為がまかり通っている。

 大量の産廃が排出される工事現場では、木くずや繊維くず、紙くずなどの、安定型処分場では処分できない産廃が必ず排出される。工事現場でこうした廃棄物の分別をすることは、かかる手間を考慮すれば現実的ではなく、分別を行わないとすれば管理型処分場に持ち込まざるを得なくなるため処理費用は高額になる。

 こうした「現実」に対して、処理費用を抑えるために中間処理業者が自前の施設で産廃を分別して適切に処分しているというのが、一応の「タテマエ」だ。ただし、分別は多くの場合手作業で行われており、危険で手間のかかるこうした手順を省略してすべての廃棄物を安定型に持ち込むことは、業界の公然の秘密となっているという。結果的に、適正に分別処理している業者だけが「馬鹿を見ている(損をしている)」というのが現実だ。

産廃を分別する「振るい機」

あるはずの「アミ下」が「無い」矛盾

手で選別した後の、管理型混合廃棄物
排出事業者から排出されてすぐの、「管理型」混合廃棄物。
3センチ以下の廃棄物は手選別できない

 こうした不正な産廃処理が行われるリスクは法的にも想定されており、それを防ぐために中間処理業者には産廃を分別する「選別ライン」設備が義務づけられている。

 選別設備として一般的なのは、回転式選別機(トロンメル)や振動式選別機、風力選別機、磁力選別機など。県内の中間処理業者によると、こうした選別ラインを稼働させた場合は必ず「アミ下」や「トロンメル残さ(振るい下残さ)」と呼ばれる未分別の産廃が生まれるという。これらは大きさ10~30ミリ程度の小さなごみで、安定5品目に該当しないため必ず「管理型」で処分しなければならず、高額な処理費用がかかるため中間処理業者にとっては頭痛の種だ。

 中間処理業者が取り得る選択肢は、(1)そもそも選別せずにすべて安定型処分場に持ち込む(違法)、(2)きちんと選別して分別処分し、「アミ下」は管理型処分場に持ち込む(適法)、(3)選別ラインを動かして分別したうえで、「アミ下」の存在は無視してすべて安定型に持ち込む(違法)、の3つ。

 最も経済的なのは(1)だが、これはあまりにも露骨な法律違反になる。(2)は中間処理業者が損を被ることが前提で、事業継続を難しくする選択肢。したがって、(3)が現実的な選択肢となる。しかし、選別ラインを動かせば必ず「アミ下」が出るため、(3)を選んだうえで「アミ下は出ませんでした」という言い訳は、素人ならいざ知らず業者間や管轄行政では通用しないはずだ。

管理型混合廃棄物を選別ラインで選別した、「アミ下」と呼ばれる産廃

 福岡県環境部監視指導課、福岡市環境局、佐賀県県民環境部循環型社会推進課は、一部の中間処理施設に対して立ち入り検査を行っているが、行政のチェック機能が働いているのか甚だ疑問だ。たとえば安定型の最終処分場を持っている中間処理業者は、管理型混合廃棄物が出ていないように行政報告とマニフェスト(※)の虚偽記載を行い、本来なら管理型最終処分場へ搬出しないといけない廃棄物を混ぜて安定型処分場へ搬入しているのが現状だ。産廃処理の現場ではこうしたわかりやすい矛盾が明らかになっているにもかかわらず、放置されたままになっている。

※マニフェスト
 「産業廃棄物管理票」のこと。排出事業者は産廃処理を委託する場合に、産業廃棄物の名称、運搬業者名、処分業者名、取扱い上の注意事項などを記載したマニフェストを交付して、適正に処理されたか確認する義務が課せられている。

【特別取材班】

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