2024年04月27日( 土 )

環境認証が重要な非財務情報へ 賃料への効果はいまだ限定的(後)

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東京都の大規模ビルオーナー、CO2削減義務が課されている(つづき)

(株)ニッセイ基礎研究所 
金融研究部主任研究員
吉田 資 氏

 欧米ではESG投資が普及していることもあり、環境認証を取得したオフィスビルは認証がないビルより賃料が高くなるという報告もある。テナントにとって、賃料が高いというデメリットもあるが、環境対応のあるビルに入居したほうが、企業としてステークホルダーから評価されやすいというメリットがあるようだ。そのため、環境投資のパフォーマンスが高く、再エネ由来電力の利用ニーズが増加している。

 日本では、(株)ザイマックス不動産総合研究所の20年2月の研究調査()で、環境認証を取得しているオフィスの新規賃料が13~14年で+4.4%、17~18年で+2.2%高くなるという報告があるなど、一部では賃料に差が出始めている。しかし、欧米とは異なり、環境認証を取得しても高い賃料を設定することは容易ではないのが、現状のようだ。環境認証の取得したビルで空室率が上がりにくいなどの明確な違いもないようにみられる。このような背景から、まだまだ電力の再エネ化などの環境配慮が十分に普及しているとはいえない。

※ 出典:「東京オフィス市場における環境不動産の経済性分析~オフィス賃貸市況と環境認証の新規賃料への効果~」 ^

RE100の影響、不動産投資に大きく

 RE100に加盟する日本企業は46社(20年12月時点)。これから加盟企業がさらに増えれば、不動産業界で環境対応のプレッシャーが大きくなり、再エネを利用した環境配慮型ビルの供給も増えていくだろう。上場企業にとっては、投資家や株主、ステークホルダーの環境配慮への関心が高まるなか、取り組んでいないと企業評価に影響が出るなど、逆にリスクになりかねない。

 一方、RE100などに参加する先駆的な企業は使用電力の再エネ化を開始しているが、その他の企業からの関心はまだそこまで高まっていないのが現状だ。コロナ以前、先進的なスタートアップ企業では、人手不足などを背景に、環境に配慮し、社員の健康や満足度を高められるビルに賃料が上がっても入居したいというニーズが増加していた。しかし、コロナ禍でオフィスにかかるコストを最小限に抑えようとする向きが増え、オフィスの環境対応は先送りになりつつある。

 大手企業でも、コロナ前はコストが多少増加しても、環境などに配慮して従業員の健康や快適性を高めることに関心が高まっていたが、コロナ禍でそのニーズはやや弱まり、オフィスの賃料に上乗せをして環境配慮をするより、必要な設備や立地を備えた手ごろな価格の物件を選択するケースが増えている。

 ESG投資は当初、社会課題への自主的な対応から始まったが、後に機関投資家により、長期収益獲得を図るうえでの重要な非財務情報として位置づけられつつある。このような背景や、RE100など環境対応が普及する大きな流れがあるため、不動産投資に与える影響は増していくだろう。最終的には、日本も欧米のように不動産業界でもESG投資が広く普及すると見られる。

環境認証の新規賃料への効果

※サンプル全体
出典:「東京オフィス市場における環境不動産の経済性分析~オフィス賃貸市況と環境認証の新規賃料への効果~」、ザイマックス不動産総合研究所

(了)

【石井 ゆかり】

(前)

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