2024年05月03日( 金 )

「West Express銀河」を通した夜行列車の復活(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 2000年代に入ると、夜行列車はダイヤ改正のたびに廃止され、21年1月末の時点では、定期の夜行列車として運転されるのは「サンライズ瀬戸・出雲」だけになってしまっていた。

 そうしたなか、JR西日本は16年11月29日に、超豪華寝台列車である「トワイライトエクスプレス瑞風」の運行に関する記者会見を開いたが、その席上で「トワイライトエクスプレス瑞風」とは別に、「新たな長距離列車」の構想がある旨を明かした。

 JR西日本が計画した「新たな長距離列車」の名前は「West Express銀河」である。そのコンセプトは「気軽に鉄道の旅を楽しめる列車」である。それゆえ、鉄道を使用した旅に慣れた乗客から普段あまり鉄道を使わない乗客、さらに訪日観光客までの幅広い客層を対象としている。

 試行錯誤的な要素が強いため、いきなり新車を導入したのでは、リスクが大きいといえる。そこで、かつて京阪神地区の新快速で使用されていた117系電車の1編成6両が余剰になることから、これを改造することになった。そして京都~出雲市間の夜行列車や、大阪~下関間の昼間列車として、マルスに入れて、みどりの窓口で指定券を購入できる体制で、運行することが計画された。

 当初は、20年5月8日から運行が開始される予定であったが、コロナウイルスの蔓延により、感染予防などの対策などが検討された。その結果、同年の9月11日から日本旅行が企画・実施する旅行商品として、運行を開始することになった。

 「West Express銀河」のキーワードは、「多様性」「カジュアル」「くつろぎ」である。多様な旅のスタイルへ対応するため、グリーン車・普通車の座席のほかに、グリーン個室、ノビノビ座席、コンパートメントシート(普通車個室)など、複数の種類の座席を設置している。そして女性客の獲得へ向けて、「女性席」を設けた。

 価格面では、割高となる寝台料金を設定しないことで、気軽さを追求している。また個室を設けるが、グリーン車だけでなく、普通車の個室も設定して多様性を追求している。さらに、乗客が自由に使うことが可能な定員外のフリースペースとして、4号車にラウンジが設けられた。ここでは飲食物や各種グッズの販売以外に、イベントも開催される。

 これらを通して、自家用車や高速バスなどのほかの輸送モードでは味わえない鉄道の旅の楽しさを伝え、リピーターを増やしたいとしている。

 グリーン車“ファースト”、グリーン個室、普通車個室、“ノビノビ座席”は、横になることができる設備であるが、割安な価格で提供するため、寝具類などが備わっていない。そうなると、走行距離が500kmまでの中距離の夜行列車で使用することが、妥当といえる。

 「West Express銀河」は、117系電車を改造して導入したため、運転する線区が全線で直流電化区間でなければならない。候補として挙がるのは京都~出雲市間で、それ以外となれば、京都~下関間、京都~広島間が有力である。21年春から夏にかけては、京都~新宮間でも運転されるが、この時期は往路が夜行で、復路が昼行となる。

 東京~大阪間、京都~松山間、大阪~長野間などは、定期列車として設定しても需要が見込める。多客期であれば、大阪~南小谷間も候補となる。

 だが、JR東海・JR東日本、JR四国には117系電車を運転できる運転士が皆無で、乗務員の問題から難しいといえる。

 それ以外となれば、「シュプール号」が考えられる。「シュプール号」は、国鉄末期から冬になれば運転されていたスキー専用列車である。特急型車両を使用して、価格面で割安な急行列車として設定していた。

(つづく)

(後)

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