2024年04月20日( 土 )

九州新幹線長崎ルートを長崎県の視点から考える(中)

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 九州新幹線長崎ルート(武雄温泉~長崎/以下、長崎ルート)の2022年秋暫定開業まで、残り2年を切った。トンネルや高架橋などの土木工事は完了済みで、線路や電気設備などの工事に入っている。駅舎についても、諫早駅、新大村駅に続き、20年7月に長崎駅でも建築工事が始まっており、開業がまさに目に見えるかたちで近づいている印象だ。その一方、国や長崎県、JR九州などが求める「長崎ルートのフル規格化」については、佐賀県知事の拒絶により、その行方がまったく見通せない状況のまま。長崎ルート問題をめぐっては、着々と建設が進むのをよそに、佐賀県の主張、動向にばかり注目が集まる傾向があるように思われる。そこで今回、長崎県の視点から、長崎ルートの暫定開業、フル規格をめぐる問題について、検証してみる。

リレー方式では開業効果も限定的

しまてつカフェトレイン(提供:長崎県)
しまてつカフェトレイン(提供:長崎県)

 「新幹線の開業効果を沿線自治体だけでなく、全県に広げるのがミッション」(同)と話す。開業効果とは、交流人口の増加、つまり観光客の増加を意味する。たしかに、新幹線の開業効果は、新幹線駅周辺に必ずしも限定されるものではないという調査結果はある。しかし、駅からどれだけ離れていても、効果が波及するわけではない。ましてや、暫定開業である限り、その効果も限定的なものにとどまらざるを得ないと思われる。

 県民の気運醸成も気がかりなところだ。「新幹線が来ること自体は、ほとんどの県民が認知するようになっているが、開業時期の認知度は50%以下にとどまっている」(同)からだ。沿線から離れれば離れるほど、認知度が低い傾向がある。今でも「盛り上がっているのは沿線だけ」「ずっと昔からいっているずっと先の話」という見方をする県民も少なくないようだ。「どうすれば認知度が上がるのか。まだまだ具体的にイメージできていないというのが、正直なところ」(同)とこぼす。開業効果の波及、県民の認知度の向上を考えれば、やはり、フル規格がどうしても必要ということだろう。

 対面乗り換え方式の場合、博多~長崎間の所要時間は最速で約1時間20分。現行の在来線特急から約29分の時間短縮になる。これがフル規格化されれば、所要時間約51分となり、約58分の時間短縮となる。「博多まで1時間弱」と聞くと、そのインパクトがかなり違ってくる。「福岡、佐賀、長崎が1つの経済圏になるという期待」(同)すら芽生えてくるわけだ。長崎ルートのフル規格は、新大阪直通を意味する。遠く離れた都市同士を安定的につなげるのが、新幹線の最大のメリットだ。線的につながることで、関西、中国との交流拡大が期待できる。ただ、長崎から新大阪まで移動するとなると、航空便との競合問題が生じる。新幹線の所要時間が約3時間15分なのに対し、飛行機のフライト時間は1時間5分ほどしかない。いわゆる「4時間のカベ」を基準にすると新幹線が有利だが、料金設定や運行本数などによっては、ある程度ユーザーが飛行機に流れる可能性はある。それでも長崎県は、「飛行機と新幹線を合わせて総交流人口は増えることが期待される」と見ている。

(つづく)

【大石 恭正】

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