2022年06月29日( 水 )
by データ・マックス

ダイバーシティのまち 住吉・美野島がたどってきた歴史(6)

現代
工業地帯の衰退とキャナルの誕生(つづき)

 54年には前出の日本ゴムの福岡工場が、久留米工場への集約のために閉鎖。このとき、地域の空洞化を懸念した福岡市などにより、新たな企業の招致活動が行われた。その結果、松下電器産業(株)(現在のパナソニック(株))によって55年12月に九州松下電器(株)(現在のパナソニック システムソリューションズジャパン(株))が設立され、56年1月に日本ゴム福岡工場跡地の土地・建物を取得。地域最大級の工場および雇用の場が完全に失われることは、とりあえず回避された。だが、博多および天神方面から拡大していった市街地拡大の波に呑まれていくかたちで、美野島の工業地帯からは工場が減少。その一方で、72年11月には、美野島交差点の角にボウリング場「サンアローボウル」(2007年10月末閉鎖。その後、13年12月に「MrMaxSelect美野島店」がオープン)が開業するなど、時代の流れとともに地域の性格も変化を余儀なくされている。なお、美野島エリアは、69年7月に実施された町界町名の改正によって住吉から独立。住居表示がそれまでの「蓑島」から「美野島」となった。

美野島の建設現場(有澤建設)
美野島の建設現場(有澤建設)

 83年3月、筑肥線の博多~姪浜間の廃線にともなって筑前蓑島駅が廃止されたことにより、エリア内から鉄道駅が姿を消した。鉄道駅という強力な交通インフラが失われてしまったことは、地域にとって大きな痛手だといえよう。なお現在、線路跡は一部が「美野島緑道」として遊歩道となっているほか、駅跡地にはレプリカのホームと駅名標が設置されている。一方で、90年代後半から2000年代初頭にかけては、美野島4丁目の南エリアで大型マンションが相次いで開発。川に面した美野島南公園などもあり、リバーサイドのロケーションを生かした居住地としての人気も高い模様だ。

福岡・博多を代表する大型複合商業施設「キャナルシティ博多」
福岡・博多を代表する大型複合商業施設「キャナルシティ博多」

 96年4月には、住吉1丁目の前出のカネボウ博多工場跡地で、市内有数の大型複合商業施設「キャナルシティ博多」が開業した。93年6月の着工から約3年の歳月をかけて完成したこの複合商業施設は、敷地内を流れる疑似運河を取り囲むかたちの7つの建物群で構成され、商業店舗だけでなくシネコンや劇場、2つのホテルやオフィスなども入居。さらに2011年9月には「キャナルシティ博多イーストビル」(通称:第2キャナル)もオープンし、現在も福岡を代表するランドマークの1つになっている。

 なお、住吉エリアは那珂川の対岸にあたる春吉エリアと合わせて、ゲイバーなどが多く集まる“ゲイ・タウン”としての側面もある。ゲイのコミュニティサイト「Gclick」の登録店舗情報によると、住吉には約60店舗、春吉には約20店舗のゲイバーなどがあり、その周辺も合わせると約100店舗が軒を連ねているとされる。店舗数では「新宿2丁目」(東京)、「堂島」(大阪)、「上野」(東京)に続いて全国4位とされており、九州では断トツだ。

  

住吉神社の前を通る「住吉通り」沿いにはマンションやオフィスなどが立ち並ぶ
住吉神社の前を通る「住吉通り」沿いには
マンションやオフィスなどが立ち並ぶ

 まちの変遷をたどってもわかるように、住吉・美野島は何とも不思議なエリアだ。住吉神社などの古代からの歴史を有する一方で、キャナルシティ博多のような新たな商業施設が立地する。バス通りでもある住吉通りやこくてつ通り、百年橋通り沿いにはマンションやオフィス、商業店舗、ホテルなどが立ち並ぶ一方で、少し通りを入れば、美野島商店街などの昭和の古い街並みも残っている。そのほかにも、さまざまな地域の要素を内包しており、ある種“ダイバーシティ(多様性)”を受け入れる度量をもったエリアだ。博多と天神という市中心部から近い距離にありながら、そのどちらともいえない雰囲気をもっており、それが人を引き付けてやまない何かしらの魅力を放っているように思える。そうした地域特性に価値を感じて開発に食指を動かす事業者も多く、これからも新たな魅力を付加しながら、市中心部でありながら博多とも天神とも迎合しない、一種独特な存在感を示すエリアであり続けるだろう。

(了)

【坂田 憲治】

(5)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。

現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。

また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)

ご応募はこちら(nagaue@data-max.co.jp)まで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連キーワード

関連記事