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2021年02月17日 13:00

コロナ禍での「孤食(個食)」について考える(後)

大さんのシニアリポート第97回

 コロナ禍で巣ごもりを強いられている。機転の利く人は、散歩やウォーキングなどで気を紛らせる術を持っている。さらに多趣味の人は、巣ごもりといういささか暗いイメージから容易に抜け出せる。ところが独り者で無趣味、人付き合いが苦手な人にとっては巣ごもりを強要されても日常生活そのものが変わることはない。孤食(個食)には慣れている。いつものように淡々と食事を口に運ぶ。しかし、そこに消し去ることができない問題が、依然として隠されたままだ。第39回(2015年12月)でも報告したのだが、コロナ禍での「高齢者の“低栄養”と無知」を再度考えてみたい。

「孤食(個食)」により認知症発症、そして孤独死へ

 介護を勉強するために専門学校に通っていた妻(当時65歳)が、訪問介護の実習でとあるお宅を訪問したときのこと。80過ぎの独り住まいの男性。要介護4。頼まれて昼食を作ることになり、得意の味噌汁をつくった。それを口にした彼は「あーあうまい、妻が作ってくれた味だ」と喜び、「毎日来て、食事を作ってくれ」と懇願されたという。手づくりの食事は簡素でも「うまい!」のだ。

 その後、宅配にシフトされるケースが増えたという。この方が「完食したのか、残飯(食)の量など、(栄養を含めての)管理がしやすくなる」ためだ。「味や好き嫌いが人によって違う。多くを望めない人に、一律な食事を提供することに問題がある。寝たきりでも、歩行が不自由でも、味だけはわがままであってほしい」と妻は話した。現在、地域包括ケアシステムが実施され、厚労省は「重度な要介護状態になっても、住み慣れた自宅や地域で暮らせる」と唱える。実際には、厚労省の思惑とはほど遠いのが実情だ。さらに、コロナ禍が追い打ちをかける。

 10年ほど前、足立己幸氏(当時・女子栄養大学名誉教授)に講演をお願いしたことがある。足立氏は「高齢者は運動量が少ないから、食事の量そのものを減らすということは間違っています。必要量を常に確保しておかなくてはなりません。たんぱく質や脂肪など、不足分をそれぞれ補うというのでは取り過ぎです。問題は全体の量を勘案すること」と警鐘を鳴らした。

 足立氏は高齢者の「孤食(個食)」の問題にも言及。氏の著書『65歳からの食卓』のなかで、「家族との供食頻度が高い高齢者は、低い人に比べて“食事内容の量・質両面の問題が少ない。健康、食生活や生活、人間関係や生きがい・生活の質について、積極的な態度や良好な行動の人が多い。特に地域での社会活動へ参加している高齢者にこの傾向が強い”ことが明らかになっている」と指摘している。

 残念ながら、高齢独居者の多くは、独りで食事をとる以外にない。“バランスのいい食事”を頭に描いても、現実には手料理から出来合いに安易にシフトするだろう。一緒に食べてくれる連れ合いがいない状況では、つくり甲斐がないからだ。話し相手はもっぱらテレビ。それも眺めているだけ。食事時間も確実に減るだろう。やがて食事への興味が失せ、体調管理もままならなくなる。そして認知症に、その先にある孤独死…。

コロナ禍で「共食」が不可能に

 孤食回避のため、会食を勧める自治体やボランティア団体が増えた。ご近所の人たちと一緒に食事をするのは楽しい。管理栄養士がつくる食事は正に栄養満点。味にも心配りが行き届いている。ただし、ほとんどが月1~2回の会食だ。終われば日常的な孤食に戻る。やはり、東京都多摩ニュータウンのNPO法人「福祉亭」が実践している定食(毎日日替わりメニュー)の提供が理想的なのだが…。

 コロナ禍以前、「ぐるり」にあるガステーブルを使い、常連に「食事会」を提案したことがあった。しかし話に乗ってこない。鍋のふたを開けたときの湯気、香り、盛り付け…そこに何となく「活きている人間」を感じ取る。しかし、動ける人が食事に無関心になる。食うことに興味を失ったら、「人生一丁上がり」じゃないの、と老婆心ながらいいたくなる。講演会での足立氏の言葉が身に滲みた。「一代で飢餓(戦争による)と飽食(高度経済による)と貧食(孤食などによる)を経験したのは日本人だけです。それだけ平均寿命が延びたということでしょうか」。

 「ぐるり」で実践しているのは、「ぽかぽか広場(子ども食堂)」だけだ。それもコロナ禍により、室内でわいわい話ながら食べる「共食」は不可能だ。せいぜい社会福祉協議会に持ち込まれるフードバンクからの提供食品(主にレトルト類)を手渡すのが精一杯。独り者に食事や飲物を提供する「朝カフェ」は、当分先になる見込みだ。

(了)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)

 1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務の後、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ2人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(講談社)『親を棄てる子どもたち 新しい「姥捨山」のかたちを求めて』(平凡社新書)『「陸軍分列行進曲」とふたつの「君が代」』(同)など。

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