2024年04月19日( 金 )

「社員の成長を支える」 組織風土の醸成で進化を遂げる

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

(株)プレジデントハカタ

足元を見直す機会になった

プレジデントホテル博多(外観)
プレジデントホテル博多(外観)

 新型コロナウイルス感染拡大防止のために、自粛を余儀なくされた業界は大きな打撃を受けた。観光産業もその1つだ。ホテルや旅館は、前年を大きく割り込み我慢の経営を強いられている。しかし、物事はその捉え方によって良くも悪くもなる。「プレジデントホテル博多」や「ホテル ラ フォレスタ」を展開する(株)プレジデントハカタの社長・友杉隆志氏は、今回のコロナ問題について、「たしかに、大きな売上を失いました。コロナ前までに回復するには時間がかかるでしょう。しかし、マイナス面ばかりではなかった。足元を見直す良い機会になった」と前向きに捉えている。

 プレジデントホテル博多は、2020年5月の1カ月間を休館した。しかし、ただ休館したのではなく、その間にできる手立てを講じ、次々に実行した。たとえば、ホテル1階の和創作呑処「緩音(かのん)」を改装、高級感を演出する内装を施し、器もすべて店の雰囲気に合うものに入れ替え、店のグレードアップを図った。ホテル館内の掃除も徹底的に行った。従業員のための勉強会も開催した。経営セミナーやマーケティング、料理長による料理教室、英会話教室などカリキュラムを組み、希望者が受講できる講座をいくつも開催した。

 役職者は、希望すればビジネススキルを身に付けるためにグロービス経営大学院の講座を受講することができる。受講料は会社が全額負担してくれる。そのため、今回の社内講座では、役職者が学んだことを話すことが多かったが、なかには、英語が得意なスタッフが英会話講座の講師を務めることもあった。「学んだことはアウトプットすることで自分のものとなるため、受講者だけなく講師自身もレベルアップできたと思います。無駄な日は1日もなかった」と隆志氏は、手応えを感じている。

「社員を可愛がっちゃれよ」の言葉が原点

上:友杉次三郎氏が受賞した勲五等雙光旭日賞(1965年)
下:友杉淳治氏が受賞した勲四等旭日小綬章(1989年)

 「ウィズコロナのこれからは、マイクロツーリズムなど域内観光が見直されます。新しい観光需要の掘り起こしにも取り組みたい」と語る。マイクロツーリズムとは、普段の生活とは違った非日常を求めて、近場の温泉や旅館に通ったのが始まりだといわれている。遠方への旅行から近場への旅行需要が増えることで、地域の再発見にもつながると期待されている。それを後押しするのが、観光産業の支援策として打ち出されたGoToトラベル事業である。同社では、非日常を提供するため、価格を下げるだけではなく、高付加価値の宿泊や高級食材を使った料理を提供するプランを企画し、新たな需要を喚起していく考えだ。

 どのような時代でも生き残ることができるのは、さまざまな変化に対応できる企業だといわれる。変わることができるということは、変わらない確固たる軸や基礎があるということでもある。同社も時代の荒波を乗りこなしながら、変わらない理念を受け継ぎ50年余の歴史を刻み続けてきた。隆志氏は3代目社長を務める。同氏にとっての経営の原点は「社員を可愛がっちゃれよ」という創業者で祖父の淳治氏が最後にかけてくれた言葉であるという。

 友杉家は代々、市議会議員や町の世話役などを務め、地域に関わり地域の役に立つことを1つの指針にしてきた。地域への貢献が評価され、淳治氏の父・次三郎氏は勲五など雙光旭日章を、祖父・淳治氏は勲四など旭日小綬章を受賞した。

企業の成長は個人の成長に比例する

 そうした精神は代々、引き継がれてきたようだ。隆志氏は、淳治氏の「社員を可愛がっちゃれよ」という言葉を胸に刻んできた。また、父であり先代社長・貴一氏の「ビジネスホテルはブランドが浸透しているシティホテルと違い、名前だけで社員がきてくれるわけではない。待遇面だけなく、社員と向き合うなど信頼関係をつくること」という言葉は隆志氏の人づくりや組織づくりに大きな影響を与えた。

 隆志氏も「企業の成長は個人の成長に比例します。顧客満足の前に従業員満足が大事。従業員が満足していないのに、お客さまに満足を提供することはできない」と言い切る。隆志氏は、「社員にはチャンスを得てもらいたい。グロービス経営大学院の受講もその1つ。社員は人財ですから」と目を細める。

ホテル ラ フォレスタ
ホテル ラ フォレスタ

 隆志氏は支配人などの役職者に、「自分のホテルや店と思って考え、良いと思ったことは許可を取る必要はない」と権限を譲渡している。現場に直接口を出すこともしない。そうした企業風土づくりを進めてきた。学びの機会を積極的に提供するし、何より、仕事を任せた部下を徹底して信用、信頼するのが隆志氏の信条である。信頼された社員は、その期待に応えようと努力し成長する。そうして会社が成長するサイクルができ上がる。

 2014年3月に「ホテル ラ フォレスタ」がオープンする際、スタッフが友人や知人を誘ってくれたため、求人広告を出す必要がなかったというから、組織内のコミュニケーションや信頼度の高さをうかがうことができる。当然、離職率も非常に低い。

 今後は、「社長がいなくても会社が回る組織」を目指しているが、その基盤は着実に厚みを増している。プレジデントハカタは、コロナ禍をバネに新たな進化を始めたようだ。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:友杉 隆志
所在地:福岡市博多区博多駅前1-14-7
設 立:1968年7月
資本金:2,400万円
TEL:092-411-6659
URL:https://www.presidenthotel-hakata.co.jp


<プロフィール>
友杉 隆志
(ともすぎ たかし)
1971年1月生まれ。福岡市出身。福岡大学付属大濠高等学校、福岡大学法学部卒。2000年、(有)友杉商事に入社、常務就任。04年、(株)プレジデントハカタに社名変更。06年、代表取締役社長に就任、現職。趣味は魚釣り、キャンプ、映画鑑賞。

関連キーワード

関連記事