インド視察から学ぶ、インドの時代がくる(4)リックス工場オープン②

 インドから帰国してから、改めてリックスの安井社長へのインタビューを行った。下記にその内容をお届けする。

安井社長インタビュー取材

 ──インドにおいて、まったく英語の言葉が詰まってしまって赤面の至りになりました。今日、お聞きしたい2つの用件があります。私が今回のインド視察のシリーズ連載をネットにて始めまして、一応15回のシリーズを書こうと思っています。そこで、ぜひ、インドをどう捉えるかという話を聞きたいと思っています。そしてもう1つは御社の国際戦略についての会社全体の方向性をうかがいたいと思っています。 一度に欲張った質問で恐縮です。 

インド進出の経緯と「自社ハンドリング」の重要性

リックス安井代表
リックス安井代表

    ──まずはインドのことについてお聞きします。そもそも昔、ムンバイに駐在員事務所を置かれたのは、いかなる戦略設定があったのでしょうか。

 安井社長(以下、安井) そうです。もともと現地の代理店を通して、当社のロータリージョイントなどは取引がありました。中国の次にどこが来るかといえば、やはりインドで、人口も多く中間所得層も増えてくる状況でした。インドの販売会社に関しては前社長時代からですが、2018年に進出して現在7年目くらいになります。福岡の企業のなかでは早い方だったでしょうね。現地の代理店があったことで踏み出しやすかった理由の1つです。

 ──代理店がインド国内のメーカーに供給してきた実績があったのですね。

 安井 そうです。それとは別に、当社の関連会社で「ROCKY-ICHIMARU」という会社があり、タイヤの火流(加硫)バルブというのが海外展開において非常に重要な製品です。生のタイヤ(グリーンタイヤ)に熱をかけて焼く「加硫」という工程があり、そこで蒸気を制御するバルブをROCKY-ICHIMARUがつくっています。

 創業以来、当社が商社として扱ってきましたが、プネにブリヂストン(BS)さんの拠点があったため、代理店経由ではなく自社でしっかりケアしようということで、18年に進出を決めました。 

 ──自分たちのこだわりで勝負するには、幅広く販売する必要があると決断されたわけですね。

 安井 海外に行っても、日本と同じような商売ができるわけではありません。当社は日本では商社事業が8割を占めていますが、海外では現地の代理店が強かったりします。自らハンドリングできる、主導権を握れるメインの商品(核となる商品)がないとダメだと結論を下しているところです。

 私たちはROCKY-ICHIMARUでつくっている「ロッキーバルブ」や、自社製の「ロッキージョイント」を核としてインドへ出ました。現地に行くと、代替品を使われていて効率が悪い現場などがあり、製鉄所などで「これでやったらいいんじゃないか」という提案をしながら、徐々に中核商品の取引を広げていきました。立ち上がりは非常に早かったですね。自分たちでハンドリングできるという点が大きかったと思います。

インド市場の成長と新工場の建設

 ──販売実績としてはどのくらいの規模になったのですか?

 安井 今、5億円くらいの規模になっています。 当初は10年で到達する予想でしたが、半分の5年で到達しました。私たちの読みが甘かったというか、いい方向にふれたわけで、インドの成長パワーを感じます。

 ──工場の設立についてはいつ頃から動かれていたのですか? 

 安井 21年や22年頃から下調べを始めました。 18年からムンバイにいたメンバーが拠点を回って土地の情報をつかみ、判断するプロジェクトを立ち上げました。主導したのは、現在の工場社長である村尾です。

 彼は出張ベースで1カ月、2カ月と長期滞在を繰り返し、昨年5月から正式に常駐しています。日本からも工場のメンバーが数カ月受け入れ対応を行いました。 

 ──土地は所有されているのですか? 

 安井 買っています。価格は福岡の土地代の10分の1以下ではないでしょうか。遠くなればなるほど税制優遇があるなどの話もありました。当初は既存の倉庫でスモールスタートも考えましたが、「水がきていない、電気がない、引くのは自腹」という物件が多く、結局インフラの整った工業団地を選びました。

  建設は清水建設さんにお願いしました。近くにブラザー工業さんの工場があり、そこも清水さんが手がけていた縁もあります。クオリティを保つため、日本人の「親方」のような方が取り仕切るかたちにしました。土地と建物合わせて約6億円かかっていますが、プレスリリースの通り、日本で建てれば倍以上の費用がかかったでしょう。土地は約8,000平米確保しており、将来的な拡張の余地も十分にあります。

グローバル戦略と2030年度ビジョン

 ──海外拠点は大連に次いで2回目ですか? 

 安井 つくるものによって分かれています。ロータリージョイントは大連、産業機械・自動車向け装置は中国の常州、あとはタイのチョンブリに拠点があります。大連工場は、中国の景気が悪いといわれるなかでも、昨年は過去最高の売上を記録しました。

 海外売上比率をKPIとして置いており、30年度までに売上高700億円を目指すなかで、その20%にあたる140億〜150億円を海外で稼ぎたいと考えています。日本の人口が減るなか、グローバル市場で1%でもシェアが取れれば大きな数字になります。インドではモータリゼーションの進展にともない、自動車やタイヤの需要、それにともなう工作機械の需要が飛躍的に増えると期待しています。

中国情勢と経済安全保障

 ──中国市場についてはどう見ていますか? 

 安井 大連が好調なのは、現地にローカルのお客さんをもっているからだと思います。日系メーカーばかりを追いかけているところは苦戦していますが、当社はローカル比率が大きくなっています。一方で、経済安全保障の影響で日本から戦略物資が輸出できない状況があり、中国はそれを「自前でつくろう」としています。定年前の日本の大学教授や技術者をヘッドハンティングして技術を確立しようとしており、これは将来的に彼らが力をつけてくるリスクでもあります。

 ──ラオスの鉄道の話を聞きましたが、中国は資金援助と引き換えに管理権を握る手法をとっていますね。

 安井 そうした手法が各地で反発を招き始めているのも事実です。だからこそ、インドを拠点にすることは非常に重要ですね。私は福岡商工会議所の国際委員会委員長も務めており、当社のインド進出の状況をオープンにすることで、地元企業の背中を押し、地域の国際化に貢献したいと考えています。

経営哲学と将来への投資

 安井 私は役員のなかでは最年少で、7代目社長です。幸い、先代たちが築いた内部留保がありましたので、これを成長投資に積極的に使おうと考えています。20億円を投じた「競争センター(イノベーションセンター)」や、インド工場、そして10年で10億円規模のITシステム投資など、攻めの姿勢をとっています。 

 東証の市場再編で「プライム市場」を選択したことも大きな転機でした。海外展開においてプライム上場という信用は、いわば「パスポート」になります。そのためにIR活動やメディア露出、投資家面談にも積極的に取り組むようマインドセットを変えました。

半導体戦略と熊本での展開

 ──半導体分野、とくに熊本のTSMCについてはどう関わっていきますか? 

 安井 当社のロータリージョイントは、東京エレクトロンさんやディスコさんといった装置メーカーに採用されており、TSMCの装置のなかにも必ず入っているはずです。熊本では西原村に土地を確保しており、ここで「修理再生(メンテナンス)ビジネス」を計画・実践しているところです。消耗したパーツを交換して新品同様にして納めるメーカー的な対応を行うことで、装置メーカー経由だけでなく、エンドユーザーに近いかたちでのビジネスを構築していきます。

締めくくり

 安井 30年の売上高700億円に向けて、現在の中長期計画では26年度に600億円という数字を掲げています。 幸いにも、インド工場の村尾のようにやる気のある人材に恵まれているところが当社の強みです。7代目として、この100年企業の基盤を生かしながら、さらなる成長を目指していきます。

 

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