2024年05月05日( 日 )

米中対立と日本重視は長期円安に帰結(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年3月22日付の記事を紹介。

日本経済弱体化の最大の要因は円高

 国際分業とサプライチェーンの再構築のカギは為替である。関税を主とする貿易協定では、数%の価格差をもたらすに過ぎないが、為替は容易に価格差を1~2割、ときには3割改変することができる。その価格差をもって、国際分業やサプライチェーンを再構築する。

 日米貿易摩擦の結果引き起こされた超円高が、日本に圧倒的に集まっていたハイテク生産集積を破壊し、韓国・台湾・中国へのシフトを促進した。

 この成功体験を熟知している米国が、国際分業とグローバルサプライチェーンの再構築にあたって、為替政策を活用することは明らかであろう。第1に、人民元高を誘導し、中国の価格競争力を殺ぐこと。第2に、今や大貿易黒字国となり、世界の半導体市場を支配する韓国・台湾の通貨高を誘導すること。第3に、今や貿易黒字が消滅した日本へのハイテククラスター回帰のために、円安を推進すること。

4年越しの対ドル円高トレンドが終焉か

 年初来、円独歩安の様相である。ワクチン接種の進展と、米国経済の回復がはっきりし、米国長期金利の上昇が 2020年からのドル安を終わらせ、ドル高転換を引き起こしている。円は年初頭の102円台から109円台へと対ドル円安となったが、アジア通貨に対しても安くなっている。

 日米の金利差が拡大し、19~20年、日本人の米債投資を抑制してきたドル為替ヘッジコストが急低下し、米国国債投資採算が改善してきている。「金利差+ドル安」トレンドが見えれば、ミセス・ワタナベ(日本人の素人投資家)のドル投資が復活するかもしれない。

 しかし、より重要なのは、基軸通貨国である米国の国益から見た望ましい為替レートがどの辺にあるかの見極めである。地政学的要素を考慮すれば、米国にとっての妥当レートは、現在よりも円安かつ人民元高、韓国ウォン高、台湾ドル高となることは明らかであろう。

 1ドル120円になれば、日本経済の風景が変わる。先進国のなかでもっとも割安な日本の物価が、さらに安くなる()。コロナ終息の後、観光客は日本に殺到するだろう。日本製品の競争力は強くなる。日本企業の海外利益の円換算益や海外子会社からの配当・技術指導料収入の増加により、企業収益の増益率が跳ね上がる。需給ひっ迫、円安による国内賃金のいっそうの割安化により、日本で賃金上昇率が高まる。円安進行により、ただでさえ割安の日本の物価は一段と安くなり、国際的な1物1価水準に向けて、価格が上昇する。日本に物価上昇が定着する。

失われた20~30年間の悪循環がすべて好循環に

 円高下の悪循環とは、円高⇒日本の競争力悪化・需要低下⇒労働需給悪化⇒円建て賃金引き下げ(ドル建てで価格競争力を維持するため)⇒デフレ。

 これから起こる好循環とは、円安⇒日本の競争力向上・需要増加⇒労働需給ひっ迫⇒円建て賃金引き上げ(国際賃金との格差是正、優良労働力の確保)⇒インフレ。

 このように推論すると、米中対立は日本経済にとって大きな地政学的な順風となる。

※:日本の物価がいかに割安かは、中藤玲氏による好著「安いニッポン 『価格』が示す停滞」(2021年3月9日発刊、日経BP日本経済新聞出版本部)を参照されたい。 ^

(了)

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