2024年04月19日( 金 )

アスベスト被害訴訟(2)アスベスト除去には認定取得徹底を

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 アスベストによるひきおこされた中皮腫や肺がんなどの健康被害問題。国内では2005年にアスベスト含有製品を過去に生産していた工場近辺の住民の健康被害が明らかになったことで注目を浴びるようになった。アスベストは建築物の解体によっても排出され、環境省は解体により排出量が20年~40年頃にピークを迎えると予測しており、今後も被害者への補償制度の充実が求められる。
 アスベストに関して早くから技術開発に取り組んできたムライケミカルパック(株)の見解を紹介するとともに、解体工事をめぐる問題点などを取り上げる。

   最高裁は17日、アスベストを吸い込み肺の病気になったとして、元建設作業員と遺族が訴えた集団訴訟の上告審判決で、1975~2004年の期間、防塵マスク着用の義務付けなどの規制を怠った国の対応を違法とし、国と建材メーカーの賠償責任を認める判決を言い渡した。それを受け、菅義偉首相は「責任を痛感し、真摯に反省し、政府の代表として皆さんに心よりお詫び申し上げる」と謝罪した。

ムライケミカルパック(株)代表取締役・村井正隆氏
ムライケミカルパック(株)代表取締役・村井正隆氏

 アスベスト被害が表面化する以前の早い段階から技術開発に取り組んできたムライケミカルパック代表取締役・村井正隆氏は「全国にはアスベストが使われた建築物がまだ多く存在している。除去作業において被害者を出さないためには国、行政からの指示・指導の徹底を」と訴える。

 アスベストは低コストで耐火や断熱、防音に優れているため、かつて住宅建材をはじめ、造船や鉄道車両に使用されていた。1950年代から80年前後にかけて壁や天井、柱などに大量に使用された。しかし、人体に有害であることが指摘されはじめ、75年には吹き付け作業の原則禁止やメーカーや事業者にアスベスト建材への警告表示の義務付け、95年には事業者に防塵マスクの着用を義務付けるなど、徐々に規制が強化され、2006年にはアスベストの製造、使用が全面的に禁止となった。

 その間、アスベスト除去作業を行う場合には2次被害が起きかねず、それらの被害を防止するための処理技術確立を目的に、旧建設省(現・国土交通省)主導で学識経験者や専門家などが加わり、除去技術を認定する制度が1988年につくられた。(財)日本建築センターの認定する「建設技術審査証明」である。ムライケミカルパックは「ケミカルASR工法(除去工法)」を独自に開発、91年10月に全国で9番目(九州では1番目)となる審査証明(アスベスト処理技術)を取得した。

 今までに認定を受けた企業は約 280 社ほどあるが、現在「建設技術審査証明」をもっているところは 74 社しかない。九州には同社のほか、大分県に 1 社の 2 社しか所持していない。これは5年ごとに更新審査が定められており、規定が多く非常に難しく更新できないケースが多いためだ。同社は9番目の取得であったが、現在は2番目であり、残り7件は審査証明の更新ができていない。

 村井代表は「建設技術審査証明」認定取得が大きな問題になっていると強調する。先述の通り、アスベスト除去工事における認定企業は非常に少ないが、審査証明を取得していない企業でも除去作業ができているのが現状だ。

 認定企業には5年ごとの更新で厳しい規定が設けられており、たとえば作業中に着用するタイベック防護服を現場から離れるごとに新しいものに着替えることが義務付けられている。とくに夏場など汗を多くかく時期には、服のなかが蒸れるために1時間ごとに着替えることもある。一方で、認定を受けていない企業に関しては規定自体が存在しないため、コストを抑えるために、現場を離れても同じものを着たまま作業を続けているケースが多いという。また、十分な機材・機器を所有しているのか、除去作業の技術がどれだけ備わっているのかわからないため、工事中にアスベストの粉塵が飛散し2次被害を引き起こす可能性が高まることが懸念される。

 解体工事(アスベスト除去含む)の入札において、参加資格を認定取得している企業に限るとしている市町村もあるが、認定企業に限った場合、どうしても候補企業が偏り随意契約となってしまう。それでは公正を期す入札制度に沿わないという理由から、多くの市町村は入札に制限を設けていない。また、工事案件が多く、認定企業だけでは処理が追い付かないことから広く参加を認めているという。

 村井代表は「技術レベルを高水準に保つことを踏まえ、国交省は局長通達などで県や市に対し、認可取得の指示を徹底してほしい。たとえば、医者が足りないからといって医師免許がなくても治療・医療行為をさせていいのか。アスベスト除去工事も同じ。人命より入札制度に力点を置いて物事を進めている」と憤る。「認可を取得していなくても、同様の技術を有していて工事を行えるというのであれば、認可を取ればすむこと」とも提案する。

 アスベスト含有建物が多く存在し、解体工事は今後も行われる。最高裁判決の結果、アスベストへの関心が高まり、無認可業者の問題も注目されることになるだろう。その前に、国交省および県や市は早急に対応すべきだと、村井代表は強く訴えている。

【内山 義之】


<COMPANY INFORMATION>
代  表:村井 正隆
所在地:福岡県久留米市藤山町696-5
資本金:2億9,300万円
URL:https://www.murai.co.jp/

(1)

関連記事