2024年05月06日( 月 )

JR西日本、事故をなくす体質にするには(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 JR西日本といえば、「大事故を起こした会社」というイメージが根強い。とくに、2005年4月25日に発生した福知山線の脱線事故では、107名も死亡するという、近年では稀に見る大事故となった。JR西日本が事故やインシデントの発生しづらい体質に生まれ変わるためには、どうしたらいいのか。

   JR西日本において、重大事故や、事故にはならなかったものの一歩間違うと大惨事になっていた重大なインシデントが発生する原因として、筆者は「運行管理の専門家が不足している」点を重視する。

 JR西日本が発足した当時から、山崎正夫氏(運行管理専門)を除いて、社長のほとんどが労務出身者で占められている。「労務」は、会社の資産や人材などを管理する部署であるから、これが良い加減であれば、組織としてうまく機能しない。

 しかし、労務出身者が中心に社長になるような会社では、コスト管理や経費削減などに考え方が偏ってしまう。

 国鉄分割民営化に関して、「切り方が悪かった」という声を、よく耳にする。切り方を饅頭にたとえ、「JR東日本やJR東海のように餡子が多い会社と、JR北海道、JR四国、JR九州、JR貨物のように皮ばかりの会社が誕生した」といわれる。

 JR西日本は、三島会社ほど経営環境は厳しくないが、ドル箱といわれるような路線はない可能性があり、餡子が多い会社でもない。山陽新幹線は、国鉄時代から黒字ではあったが、東海道新幹線のように世界有数のドル箱路線ではない。

 また京阪神圏も、首都圏のように人口が多くない上、民鉄と競争を強いられるため、決してドル箱でもない。

 筆者は、「切り方が悪かった」は、国鉄分割民営化時に、「人材の配置を間違えた」と認識している。JR東日本やJR東海は、バランス良く人材を配置したのに対し、JR西日本やJR北海道は、労務関係者が多く配属された。JR四国やJR貨物は、技術者が多く配属されたため、営業面で脆弱であるなどの問題が露呈している。

 JR九州は、初代社長は車両設計の専門家であったが、その後は営業などが得意な人が社長になっているため、不動産事業のなかでもマンションの販売が好調であり、これらの利益で鉄道事業の赤字を、内部補助できるようになった。そのため2016年に、悲願であった株式上場を達成している。

 JR各社のなかで重大事故や重大インシデントを発生させているJR西日本の体質を変えるには、運行管理の専門家の充実が不可欠になる。今から技術系の大学などを卒業した新卒を積極的に採用したとしても、戦力として一人前になるには、10年程度を要する。

 このように新卒をじっくり養成することは重要であるが、事故やインシデントを可能な限りゼロにするためには、かつて運行管理を行っていた人財を、嘱託として再雇用したり、他社で運行管理を行っている専門家をヘッドハントするなどして、充実させる必要がある。

 JR西日本が尼崎で大事故を起こしたとき、鉄道事業本部の安全対策の責任者は、変圧器の専門家であり、信号や保安システムなどの運行管理の専門家ではなかった。当時は、山崎氏ぐらいしか、運行管理ができる役員がいなかったことも、あの大事故につながった原因といえる。また労務出身者が中心に社長になる企業文化も問題であり、営業部門や技術部門など、さまざまな部署から社長が誕生するようにならないと、考え方も偏ってしまい、組織としてのバランスを崩すことになってしまう。

 組織としてバランスが取れると、風通しも良くなり、それが良い企業文化につながり、事故やインシデントが発生しづらい企業に生まれ変わることにつながる。JR西日本は、企業文化を変えることから始めなければならない。

(了)

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