2024年05月04日( 土 )

【スクープ第2弾/Kの事件簿】発電機協会詐欺事件にも「K」の影 Kと竹本直一・前大臣を繋ぐ郷鉄工所の残党(前)

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 前回報じた、三原朝彦衆院議員の元顧問「K」氏。Kの名前が登場するところ、なにかしらトラブルが発生する“令和の怪人”。「Kの事件簿」にはまだ続きがある。

ベタ記事の裏に事件あり~逮捕された容疑者の過去

 6月2日、大阪府警は詐欺容疑で東京都の会社役員、石川歩(いしかわ・あゆむ)容疑者を逮捕した。以下に掲載するのは、事件を報じた毎日新聞の記事だ。

〈詐欺〉発電機販売名目で5,300万円詐取疑い 府警、会社役員逮捕/大阪

 非常用発電機の販売名目で現金約5,300万円をだまし取ったとして、府警捜査2課は2日、会社役員の石川歩容疑者(63)=東京都中央区=を詐欺の疑いで逮捕した。認否は明らかにしていない。逮捕容疑は、大阪市内の建築関連会社に対し、「非常用のガスエンジン発電機を販売する代理店にならないか。90台は仕入れてほしい」などとうその商談を提案。2017年3~7月、仕入れ代金の約5,300万円をだまし取ったとされる。捜査2課によると、詐取した現金は借金の返済などに充てたとみられるという。20年2月に建築関連会社からの告訴を受け、捜査していた。(『毎日新聞』6月4日付)

左:詐欺容疑で逮捕された、石川歩容疑者(2017年撮影)
右:詐欺容疑で逮捕された石川歩容疑者の名刺。岡山の企業経営者が、東京でKから紹介されたときに受け取ったもの

 いわゆるベタ記事扱いの、ありふれた詐欺事件を報じているように読めるこの記事。じつは読む人が読めば違った意味をもつ、興味深いヒントが隠れているのだという。

 「あの石川が詐欺で逮捕された。郷鉄工所の関係者にとっては『ようやく』という思いだろうし、『ガスエンジン発電機』という言葉で竹本直一衆院議員を思い浮かべた人もいたのでは」(ベテラン週刊誌記者)。

名門「郷鉄工所」倒産でも暗躍?~石川容疑者の正体

 石川容疑者の過去を探ると、ある経済事件に突き当たることができる――石川容疑者は1958年生まれの63歳。1979年に新卒で千代田三菱電機(株)に入社後、三菱電機や神鋼電機などを経て2014年に(株)郷鉄工所の取締役営業本部長(事業開発本部長兼任)に就任した。

 郷鉄工所は本社を岐阜県不破郡垂井町に置く産業機械装置製造販売会社(東証二部)で昭和6(1931)年創業の長い歴史を誇り、一時は東海地方の名門にも数えられた伝統ある企業だった。ピーク時には売上約91億円(1993年3月期)を計上していたが、石川容疑者が入社した2年後の16年3月期に債務超過に転落すると資金繰りがひっ迫し、さらに不正な会計処理を指摘されるなど経営面でも混乱を来たしながら17年に上場廃止が決定。その後は資金ショートを起こして同年11月に倒産した。負債総額は約24億円だった。

 この郷鉄工所の倒産劇で注目された人物の1人が、石川歩容疑者(当時、取締役)だった。同容疑者の名前は、郷鉄工所の不正会計処理疑惑の解明のために設けられた第三者委員会が出した調査報告書(17年6月23日)にも登場する。

 報告書によると2014年当時、郷鉄工所の本業は不振を極めていたため、長瀬隆雄代表取締役(当時)はV字回復への切り札として太陽光発電事業への参入を決める。さらに太陽光事業の専門家として14年6月に石川容疑者を取締役執行役員兼新事業開発本部長として招聘し、太陽光発電施設工事の受注に乗り出した。

 しかし、早くも翌15年には太陽光事業をめぐる架空計上が発生した。調査報告書によると郷鉄工所は、手元資金の不足を補う目的で下請会社との間に介在させた「X社」(調査報告書より)を経由した郷鉄工所本体への現金還流など、不正な資金調達まで行っていたという。

 16年8月には粉飾決算の疑いから第三者委員会による実態の解明が行われている。郷鉄工所はこのころ、太陽光事業案件以外にも不動産ブローカーをはさんだ土地取引でも粉飾決算を行った可能性も指摘されており、いずれも該当期の債務超過と営業赤字を回避する手段としてこれらの不正会計が行われたと第三者委員会は指摘している。

不可解な、法人の解散と立ち上げ~ガスエンジン発電機協会

 その石川容疑者が、郷鉄工所を去る時期と前後して2016年9月に代表理事として立ち上げたのが、「一般社団法人(一社)全国ガスエンジン発電機協会」だった。さらに約半年後の17年4月11日には同法人を解散、翌12日に今度は法人名から〈全国〉をはずした別法人「(一社)ガスエンジン発電機協会」を「全国ガスエンジン~」と同じ住所に設立している。なんともややこしいが、「(一社)全国ガスエンジン発電機協会」は「(一社)ガスエンジン発電機協会」の前身で、役員構成からみても名前を変えただけの同じ組織とみてよい。

左:ガスエンジン発電協会が入居していたとされるビル
右:石川容疑者やKが販売していた、ガスエンジン発電機(カタログより)
ガスエンジン発電機の販売権を持っていると主張した「K」氏

 石川容疑者はこの協会を非常用ガスエンジン発電機の販売代理店を掌握する組織として位置付け、毎日新聞の記事にあるような架空の販売代理店話をもちかけて金銭を騙(だま)し取っていたとみられる。

 そして、いよいよ「K」の名前が登場するのが、石川容疑者が大阪市内の建築関連会社に非常用ガスエンジン発電機の購入を持ち掛けた5カ月後の2017年8月のことだ。岡山県の企業経営者O氏は、知人から紹介された三原朝彦衆院議員の顧問(当時)を務めるKから、ある「商談」を持ち掛けられた。

Kがガスエンジン発電機の購入を持ち掛けた際に用いていた資料。
石川容疑者の名前とともに竹本氏や数名の国会議員の名前がある。
五味氏は竹本氏の秘書(赤枠は編集部)

 O氏によると、Kが語った内容は、石川容疑者の逮捕容疑となった「ガスエンジン発電機の販売代理店うんぬん」という営業トークとほぼ同じ建てつけだったという。さらにKや石川容疑者が販売するガスエンジン発電機には“濡れ手で粟”の、いかにもおいしい条件がぶらさがっていた。

(後編に続く)

【特別取材班】

▼参考リンク
【スクープ】豊前市3セクが詐欺疑惑の取締役を解任 三原朝彦衆院議員の元「顧問」

(後)

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