2024年04月25日( 木 )

開通までのスピード感がカギ、下関北九州道路の動向を追う

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下関北九州道路のルート予定地
下関北九州道路のルート予定地

地元の粘り強い要望で復活

 下関北九州道路は、関門海峡をまたぐ関門橋、関門トンネルに次ぐ第三のルートとして、1990年代以降、地元での建設要望活動が活発化し、国による調査が進められていた。だが、2008年になって、国の財政難を理由に事業は凍結された。その後、地元の粘り強い要望活動が功を奏したのかどうか定かではないが、19年に入って、本格的な調査検討に着手した経緯がある。

 山口県、福岡県、北九州市、下関市の2県2市と国交省で構成されたメンバーから成る下関北九州道路計画検討会が設置され、整備効果、概略ルート、整備手法などについて検討が行われた。まぎらわしいが、2県2市と国交省に中国、九州の経済団体を加えた下関北九州道路調査検討会も17年に設置されており、こちらでも概略ルート、構造形式、整備手法について検討が行われた。ざっくりいうと、海峡のどこを通すか、橋にするかトンネルにするか、事業の取り組み方などについて議論していたわけだ。

事業スキームやルート線形

 これらの検討を踏まえ、20年に入って、社会資本整備審議会道路分科会中国・九州地方合同小委員会で計画段階評価手続きが行われ、計画段階環境配慮書も公表された。要するに、下関北九州道路の骨格が固まったわけだ。

 ルート(帯)は、起点:旧彦島有料道路(下関市)付近と終点:北九州都市高速道路(北九州市小倉北区)付近を結ぶ延長約8km(うち海峡部約2.2km)を選定。海峡部の構造は橋梁(吊橋)を選んだ。ただ、整備手法については、「PFI的な手法も含め検討する」として、現時点でも未定のままだ。

 道路(橋梁)の建設や管理運営を民間企業に委ねた事例は、愛知道路、米国インディアナ有料道路、英国クイーンエリザベス2世橋など国内外にある。交通料金や付帯事業などで収益を得て、その一部を維持管理費に充てるスキームだ。国などにとっては事業コストを下げられるし、民間企業にとっては利益を得られるということで、何かと人気のスキームだ。

 ただ、問題もある。市民生活や国の経済活動などを左右するインフラを民間企業の手に委ねて大丈夫か、というのがまず1点。2点目は、長大橋に分類される橋梁を運営管理するノウハウを持つ民間企業がそもそも存在するのか、という問題だ。もちろんNEXCOなど高速道路を建設管理運営できる民間企業は存在するが、NEXCOに委ねるのであれば、PFIでやるとしても、ことさら事例調査やスキーム検討に時間をかける必要はないだろう。何か別の思惑が働いていることは想像に難くない。

 まだスタートしていないが、国交省、2県2市の間で、ルート帯を帯から具体的な線形に絞り込む検討も内部的に行われる。用地取得は、開通時期やコストに直結するので、地味ながら非常に重要な部分だと考えられる。起点から先の道路をどのように整備するかも、今後の議論のテーマになるだろう。既存ルートの代替路としての利便性を考えれば、旧彦島有料道路から中国自動車道下関ICまで、どう結ぶかがポイントになってくる。既存の下道を活用するとしても、最寄りの下関ICまで概ね15~20分ほどでアクセス可能だ。

下関北九州道路調査検討会後の記者会見の様子
下関北九州道路調査検討会後の記者会見の様子

早くても開通は36年度以降か

 下関北九州道路の最近の動向としては、まず21年度から国土交通省と2県2市による環境影響評価(環境アセス)と都市計画決定に向けた調査が行われていることが挙げられる。環境アセスとは、事業が環境に与える影響を調査し、住民などにヒアリングしたうえで、専門家の審査を受ける手続きだ。ただ、環境アセス完了には最低4~5年の期間を要するため、そもそも事業にストップがかかる懸念もある。

 気になるのは開通時期だが、昨年度から環境アセスの手続きに入っているので、仮に5年で完了すれば、工事着手は26年度以降と予想される。工期が10年ほどとすれば、開通は36年度以降という計算になる。ただ、用地買収で手間取ったりすれば、開通時期は当然さらに伸びることとなる。

 なぜ開通時期が気になるかといえば、既存の関門橋、関門トンネルの老朽化が進行しているからだ。大規模な修繕には全面通行止めをともなうが、既存の2ルートしかない現状では、長期間通行止めするのは、交通物流に著しい影響を与える。下関北九州道路があれば、既存ルートを通行止めにしても、影響は比較的少なく抑えられる。逆にいえば、下関北九州道路が開通するまでは、既存ルートの大規模修繕に入れないという事情があるというわけだ。

 これまでは下関北九州道路が「本当に実現するのか」が議論の焦点だったが、今後は、どれだけスピード感をもって「開通までのロードマップが描けるか」がカギになってくると思われる。

【フリーランスライター・大石 恭正】

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