2024年05月04日( 土 )

中国経済新聞に学ぶ~日中ビジネス交渉人 徐静波の日本企業へのメッセージ 変わりゆく中国の若者たち

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海南島 イメージ 今年4月、ポアオ・アジアフォーラムに出席し取材をするため、中国の海南島を訪れた。

 開放政策が進んでいる海南島は今、1990年代後半の上海・浦東に匹敵するほどの人気を集めている。中国政府は、国内で2番目に大きいこの島を最大の自由貿易港として整備すべく、ほぼ半月に1回のペースで政策を打ち出している。現在、自由貿易港としての機能や影響力を徐々に失いつつある香港に代わって、海南島を東南アジア全体の貿易や物流の中心に据えようとするものである。中国政府の計画では、2025年に島全体を本土と切り離した「免税島」とする予定である。

 こうした動きに、日本企業も関心を寄せている。

 島内の三亜市で若者たちの集いに参加したところ、集まった12人のうち留学経験者が実に10人もいた。それぞれアメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、日本などで金融や経済、あるいはデザインや建築を学んだという。地元出身者はわずか3人で、それ以外は中国本土から夢をかなえるためにやってきたのである。

 彼らは、ほぼ全員MacのPCを使っていること、次に英語が流暢であること、それと暮らしがかなり裕福であること、といった特徴があった。

 日本について尋ねたら、「技術開発力があるけれどかなり控えめな国だ。でも小さい国なので中国に溶け込む必要がある」といった見解だった。

 ネットで怒りをぶちまける若者とは違ってエリートであり、自分をよく認識し、人を客観的に見ていると感じた。

 中国ではかなり豊かな部類に入る浙江省で、小学生にアンケートが行われ、「大きくなったら海外留学したい」との答えが72%に達した。すでに留学生の主要輩出地域となっており、私の高校の同級生42人のうち、半数が子どもに留学を経験させている。

 「留学をしていない子どもは大学を出ていないのと同じ」。中国の富裕層は概ねこのように思っている。親として、チャンスがあれば子どもを海外に送りたいとし、「家を買うのに400~500万元(約6,785~8,482万円)は必要だけれど、子どもの海外留学は100万元(約1,696万円)で済む」などと考えているのである。

 インターネットや人工知能(AI)に関する会社を興した人はほとんどが海外留学組であり、欧米の先進的な技術と中国の巨大な市場をうまく結びつけ、新たな産業や市場を生み出した。

 国の将来で大事なのはまさに人材であり、なかでも留学経験者はえてして国の運命を変える大事な力にもなる。100年以上遡り中国の運命を変えた孫文、陳独秀、周恩来、鄭小平はみな、日本やフランスを経験した「留学組」であった。

 よって、若者たちの留学を支援することは、国の成長を確保する大事な政策となる。

 6月6日、10年にノーベル化学賞の受賞者である根岸英一教授が、病気のため85歳で死去した。「楽天主義者」であった根岸教授は、さまざまなものに好奇心を示した。1960年、世界の新しい科学を求めて単身アメリカヘ留学し、限りない化学の魅力を感じて一生を研究に捧げたのである。

 生前、メディアの取材に対し、アメリカの若手科学者や研究者のなかで日本人が少ないということに、かなりの心配を示していた。「大して優秀でなくても、ある程度の期間は外から自分の国を見つめること、それがとても大事だ。快適で済みやすいからといって国を離れたくない、それではいけない」と語った。

 根岸教授は、「すばらしい未来をつくるべき若者たちが国を離れず、世界を知ろうとしないようであれば、井のなかの蛙になってしまい、世界の発展やほかの国の努力を知ることもできず、人類の未来も見えない。そのため、日本で今、一番大事なのは、海外留学をさせてさまざまな研究に打ち込めるよう、若者たちを支援することだ」と考えていた。

 根岸教授のこうした呼びかけは、若者に対するノーベル賞受賞者からの貴重な遺言なのである。


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