2021年12月05日( 日 )
by データ・マックス

億万長者のイーロン・マスクが500万円のプレハブ住宅に引っ越した理由

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年7月16日付の記事を紹介する。

   電気自動車「テスラ」や宇宙ロケット「スペースX」の株価上昇を受け、今では世界第2の大富豪に成りあがったイーロン・マスク氏。連日10回を超すツイッターによる情報発信でファンの獲得に特異な才能を発揮している。最近では「ニューラリンク」という新規事業に力を入れており、人間の脳を人工知能(AI)と合体させることで、人間の能力を飛躍的に向上させ、「AIに支配されないようにする」とも主張。

 人間の身体をインターネットと一体化させるというわけで、いわゆる「IOB(Internet of Bodies)ビジネス」である。この点に関しては、拙著『イーロン・マスク 次の標的:「IOBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)をお読みいただきたい。

 さて、そんな話題豊富な南アフリカ生まれのマスク氏であるが、これまでカリフォルニア州を拠点に活動を展開していた。そして7軒もの大豪邸を自慢していたものだ。ところが、最近、これらをすべて売却し、テキサス州にある「スペースX」の敷地内に準備させた移動式のプレハブ住宅に引っ越したというのである。その値段は500万円。内装に少しお金をかけたため、本人曰く「600万円を若干超えたようだ」。

 世界有数の大金持ちで、誕生日のお祝いにはイギリスの古城やニューヨークの高級クラブを貸切って、友人、知人を多数招いては盛大なパーティーを開いていた人物に何があったのか。現在のプレハブ住宅は日本のワンルームマンションとほぼ同じ広さである。カリフォルニアから引っ越した際には、「テスラの車でけん引してきた。すごい馬力だ」と、自社の電気自動車の自慢をしていたが、理解に苦しむ。

 実は、急成長を遂げたテスラであるが、その最大の売上を達成していた中国市場に異変が起こっているようだ。外国企業としては初の製造拠点たる「上海メガファクトリー」を立ち上げ、環境に配慮した電気自動車であることをアピールし、売上を順調に伸ばしてきたはずのテスラだった。

 しかし、中国における自動車販売台数そのものが急激に低下し始めたのである。この6月の最新データによると、1カ月の販売実績は160万台で、前年同月と比べ、5.3%の落ち込みとなった。すべての自動車の販売実績のうち、電気自動車に関して対前年比で169.9%増の22万3,000台が売れたはずだったのだが、問題はそこに占めるテスラの割合である。

 何とテスラの販売台数は3万3,155台しかない。これは前月の3万3,463台からもダウンしている。しかも、国内での販売が厳しくなったせいか、製造した内、5,017台は輸出に回しているのである。テスラの1人勝ちの時代は終わったといえるかもしれない。

 その背景には、中国の国産電気自動車の台頭がある。BYDや上海GMなどに加え、300社を超える国内メーカーが電気自動車市場に参入するようになったというから、過当競争といえるだろう。当然のことながら、安売り合戦も見られる。BYDはテスラを上回る4万532台を売り上げている。

電気自動車 イメージ 中国は世界最大の自動車市場である。そのため、中国政府も自国の自動車産業を育成し、海外にも売り込み攻勢をかけようとしはじめた。そのため、当初はテスラを歓迎し、破格の条件で現地生産を認めてきたが、その方針を転換するようになってきた。というのも、最近では自国内のIT企業などが相次いで電気自動車市場に名乗りを上げてきたこともあり、国産のEV育成方針を打ち出すようになってきたからだ。

 そのため先行するテスラの足を引っ張るような動きも顕在化するようになった。たとえば、中国政府は「テスラは内臓カメラでスパイ行為を行っている。テスラ車の軍や政府機関への乗り入れを禁止する」との措置を発表したほどである。メディアやSNSでも「テスラの車はブレーキが効かないなど、不具合が多く、危険だ」といった指摘も相次いでいる。

 しかも、中国政府からはテスラ車30万台に対するリコール命令が発出された。マスク氏はそうした懸念や批判の打ち消しに必死になっているが、なかなか苦戦を強いられているようだ。そんな背景もあり、マスク氏は中国政府へのすり寄りと思えるような言動が目立ち始めた。

 2021年7月1日、中国では共産党の創立100周年を祝う行事が盛大に開催された。その際、マスク氏は「中国共産党100周年を本心から祝いたい。とくに中国のインフラ整備はすばらしい」とツイートし、中国のテレビにも出演し、「中国はじきに世界1の経済大国になる」とも発言。

 確かに、世界最大の電気自動車市場を抱える中国はマスク氏にとっては大事なお得意さまに違いないはず。そんな中国で、このところ相次いでリコール問題に直面するテスラであれば、中国共産党を味方につけるのは至上命令なのであろう。新たに電気自動車用のデータセンターを中国に立ち上げ、中国政府と必要な情報を共有する姿勢を見せている。

 また、注目すべきは「世界有数の大富豪でありながら、税金も払わず、贅沢三昧な生活をしている」との批判の声が高まってきたことであろう。貧困脱化宣言をした中国であるが、まだまだ経済的には発展途上である。アメリカ的な金銭至上主義は常に批判の対象になる。そうした批判をかわすためにも、マスク氏は500万円のプレハブ住宅での質素な生活をアピールしようとしているのではないだろうか。

 いずれにしても、マスク氏はことあるごとに「自分はお金には執着しない。テスラの社長業にも興味はない」と語っている。そのうえで、豪邸を売却した資金は「火星への移住計画に使う」とも発言。中国はマスク氏の「スペースX」のもつロケットや衛星の技術にも関心を寄せているようだ。マスク氏の背後にはペンタゴンも控えているため、今後は中国とアメリカの先端技術をめぐるせめぎ合いも一層過熱するに違いない。


著者:浜田和幸
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