2024年03月29日( 金 )

ブラック社員にご用心!やっかいな合同労組絡みの労使トラブル(中)

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 ある日突然、聞いたこともない労働組合から団体交渉の申し入れを受ける。個人でも加入できる労働組合の活動が活発化している。深刻な労働問題に直面した労働者の救済支援を目的とする合同労組(ユニオン)が介入した労使トラブルには、労働者の身勝手な要求が正当化されるケースも見られ、企業経営の新たなリスクとして浮上している。

合同労組から要求書

 それから数週間、福岡労働組合総連合に加盟する「福岡地域労組きずな」と称する団体から、Bさんの残業代未払いについての電話やメールでの脅迫めいたやり取りが続くことになった。まず手始めに会社へ脅迫めいたような強い口調の電話があり、一方的にただ怒鳴りつける相手の態度に電話では埒が明かないと思ったA社長は労働組合に「メールでやり取りするよう」依頼した。すぐにメールでのやりとりが始まり、翌日には6月10日付の書類が郵送で届いた。内容は「労働組合加入に関する通知書」「要求書」「団体交渉申入書」の3通だったが、この書類内容から、すでにBさんは5月10日付でこの労働組合に加入していたことがわかった。

集団の力で威迫的な交渉を行うケースも
集団の力で威迫的な交渉を行うケースも

 労組からの要求書には、(1)Bさんが請求する所定時間外労働の賃金9,600円を期日までに支払う、(2)振り込みがない場合は団体交渉の場で支払い意思を確認する、(3)支払いの意思がない場合は、労働基準法24条違反で即日福岡中央労働基準監督署に刑事告発を行い、会社に対する臨検監査を要請する、(4)団体交渉を拒否する場合は、労働組合法違反として福岡県労働委員会に救済命令の申し立てを行う――と記載されていた。残業をしていないBさんに残業代を支払うことにA社長は納得がいかなかったが、このことで長期間争うのは賢明ではないと考え、相手の請求する賃金9,600円を期日までに支払った。

 ところが、トラブルはこれで終わらなかった。その後、Bさんは退職した後も会社の鍵をなかなか返却せず、誰もいない時間を見計らって会社に無断で侵入していたこと、また会社のサンプル品を盗んでいたことが明らかになった。A社長はチャットで、6月からは部外者なのでカギを返却する際に、Bさんがもっていたカギを使って社内に入らないよう忠告していた。この事件についてBさんは、警察には「忠告されていたが社長に会いたくなかった」言い訳をし、盗んだものについては「A社のスタッフがもって帰ってもいい」と許可したと虚偽の報告をした。

 Bさんはこのことが事件になるのを酷く恐れたのであろうか、今度は合同労組から「このことについて警察に被害届を提出したり、少しでもBさんの立場が悪くなるようなことをするのであれば、抗議行動や団体交渉を再度申し出る」と脅迫めいたメールがまた何度も届くようになった。

 労使関係がなくなった後の問題に組合が介入することはできない。ましてや団体交渉や抗議行動などいわれる筋合いもないが、 A社長はここまで酷いことをされながらもBさんの将来を考え、警察には厳重注意だけにしてもらうことにした。もうBさんには一切関わりあいたくないと思い、合同労組には回答を拒否するという強い態度でこの問題は終わりを迎えた。

 近年、このような労働組合の活動が活発化している。労働組合とは、労組法上、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善やその他の経済的地位の向上を主な目的として組織する団体、またはその連合団体のことである。一般的に中小企業では企業別組合が組織されておらず、これらの労働者を地域ごとに組織している労働組合を「合同労組」または「ユニオン」と呼び、新しい合同労組が次々と誕生している。

 合同労組の性格は団体によってさまざまであるが、その多くは一定の地域で活動し、中小企業の労働者を対象に1人からでも加入できる。また、労働者であれば雇用形態に関係なく加入できるため、労働条件の改善というよりも、組合員の解雇や未払い賃金といった個別の労働紛争で団体交渉の場をもつことを主な活動としている。なかには、多人数で押し寄せて、集団の力によって威迫的な交渉を行うケースもあるようだ。

 今回、合同労組が要求してきたのは、所定時間外労働の賃金9,600円を期日までに支払うこと。しかもその残業代は、過去を遡ること87日分、タイムカードの打刻が1分単位で定時を過ぎていたことの合計である。単純計算で1日あたり110円の残業代の請求にA社の社長は驚愕したが、団体交渉に臨むエネルギーの方が無駄と考え、期日内に請求金額を支払った。

(つづく)

【児玉 崇】

(前)
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