すでに始まっていた、樋井川の「流域治水」(前)
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2021年08月10日 06:00

すでに始まっていた、樋井川の「流域治水」(前)

「ため池」を基本方針に盛り込む

樋井川(福岡県提供)
樋井川(福岡県提供)

 樋井川は、福岡市のほぼ中央を流れる二級河川で、支川の糠塚川、駄ヶ原川、一本松川、七隈川を集め、博多湾に注いでいる。樋井川流域は、江戸時代には数多くの農業用ため池が存在していたが、戦後の高度経済成長期以降は宅地開発が進み、ただの住宅地と化した。宅地化にともない、多くのため池が埋め立てられ、現在は33池を残すのみとなっている。ちなみに、福岡市内全体のため池は約310池。樋井川流域は、過去に何度も氾濫を繰り返してきた歴史があり、そのたびに本川、支川で河川改修が実施されてきた。記憶に新しいのが2009年7月24日、集中豪雨にともない発生した浸水被害だ。床上浸水172戸、床下浸水238戸の被害を発生させ、浸水面積は28.5haにおよんだ。

 この被害を受け、福岡県は10年度から14年度にかけて、事業費54億円を投じ、「樋井川床上浸水対策特別緊急事業」に着手。総延長5.9kmにわたって、河道掘削(掘削深0.5m~1m程度)、ブロックマットなどによる護岸補強を実施した。

 事業実施中の13年4月、県は樋井川水系の河川整備基本方針を策定している。樋井川の治水をめぐっては、有識者らからなる組織「樋井川流域治水市民会議」が発足。同会議は、新しい時代の治水対策として、従来からの河川対策だけでなく、流域に関わるすべての人が協力し、貯水・遊水・浸透を中心とした治水対策である「流域治水」を提唱。市民提言として、県・市に申し入れた。

 この市民提言の内容の一部は、結果的に樋井川水系の河川整備基本方針に盛り込まれた。基本方針を見ると、樋井川の基本高水のピーク量(降った雨がそのまま川に流れ出た場合の最大流量)は295m3/s(田島橋地点)としているが、このうちの25m3/sを「流域対策による流出抑制量」に分配している。つまり、河川の水が溢れないようにするために、ため池を活用することを基本方針として定めた。もっといえば、「ため池」の治水機能を考慮した河川整備基本方針を策定したというわけだ。

「当時としては先進的」

 20年7月以降、国土交通省は「流域治水プロジェクト」を提唱し、河川対策、ソフト対策に加え、田んぼやため池を活用した流域対策による治水対策を進めようとしているが、この7年前に樋井川ではすでに流域治水が始まっていたということになる。県の県土整備部担当者は、「当時としては先進的な取り組みだ」と話す。

 この流域治水の取り組みは、翌14年5月に策定された樋井川水系河川整備計画にも当然盛り込まれた。基本方針は長期的な目標であり、整備計画は基本方針に基づく中期的な目標という位置づけになる。この整備計画では、ため池による流出抑制量は9m3/sと定められている。整備計画が策定されて以降、樋井川流域で洪水被害は発生していないため、実際にため池に水を溜めて水害発生を防いだという事実はないが、当事者以外にはほとんど知られないまま、流域治水がスタートしていたということになる。

 ただ、樋井川流域は県管理だ。福岡市内のため池も県が管理するわけにはいかない。当然福岡市の管理になる。その結果、樋井川の管理は県、流域対策は市が実施するという奇妙な役割分担が生じることになった。平たくいうと、市が実施する流域対策の実態について、整備計画に定められた対策なのにも関わらず、県の担当者が「よく知らない」ということが起こっているわけだ。

(つづく)

【フリーランスライター・大石 恭正】

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