2021年12月02日( 木 )
by データ・マックス

産地直売、時代の要求と裏事情 規模拡大に立ちはだかる高い壁(後)

「道の駅」の登場と前後して、スーパーマーケットも生鮮物の産直を導入。JAもファーマーズマーケットなどを全国各地に展開する。消費者の評判は良いが、大量出店や大規模化を目指すうえで高い壁が立ちはだかる。

生産者の心理と現実

 従来、生産者は地方や中央の市場に出荷してきた。市場はそれをセリにかけ、仲買や買参人が落札する。しかし、時代とともに小売販売の主力が青果店からスーパーマーケットに変わると、セリに代わる事前発注の比率が高くなっていく。セリにかかる前の商品を事前に仲買人に発注し、必要な商品量を確保するというやり方だ。加えて、極端な価格の変動にも対応しようというスーパーマーケットの事情で生まれた取引方法だ。そんな流れのなかで、高コストの加工工程も委託するようになる。スーパーマーケットは「まねてまねて、まね尽くし、俺が本家と胸を張る」と自嘲気味に語られる業界だ。そのかたちが一般化するのに時間はかからなかった。その結果、どの店も同じような売り場になっていく。

 そんな売り場で生産者は長い間、自分の出荷する商品がとてつもない高値で売られていることに疑問をもっていた。ものによっては、自分が手にした市場への出荷価格の数倍の価格が付けられている。生産者の不満・不信は当然だが、彼らには小売価格が、加工や輸送に小さくないコストがかかり、加えて廃棄のカバーなども考慮したものだとはなかなか理解できない。ただ、どうしてこんなに高いのかと思うだけである。

 そうしたなか、やがてスーパーが道の駅のスタートと前後して、魅力の面で人気のない自前の青果売り場を補うために、生産者に売り場を提供するようになる。そのやり方は、生産者に当日収穫した商品を持ち込んで値段を付けてもらい、売上から15%程度を出店手数料として受け取るという方式だ。

 ところが、これが思いがけなくお客の人気を得た。青果の人気度は店の評価にもつながるから、店としても出品者を増やすことにさらに力を入れる。商品には生産者の名前が添付されているから、今度は生産者同士の価格や品質競争が生まれる。しかし、安く売れば売るほど利益も小さくなるから、生産者の競争意識は品質と鮮度に重きが置かれる。

 手数料の15%を支払っても、100円で販売すれば85円の利益となる。市場出荷の手取り50円足らずに比べると割がいい。当然、そこに不満はかけらも生まれない。売り場を提供する店舗側も人件費や廃棄ロスがない15%だから、こちらもおいしい。

 同様のやり方はそう時間を経ずに、少なくないスーパーの売り場へ広がっていく。しかし、スーパーのお客のほとんどがリピーターである。特別なことがない限り、客数に大きな変化はない。つまり、売上額が一定なので生産者売り場を大きく広げることができない。それを解決したのが産直市場だ。多くの生産者が集まり、鮮度感あふれる売り場をつくれば話題になる。各地に多くの公営・私営の生産者直売所が生まれた。

 JAは従来の直営スーパーに加えて、ファーマーズマーケットや道の駅と称する直売所を北海道から沖縄まで全国に展開している。なかには観光コースに組み込まれるものまである。いうなれば「わざわざの店」だ。価格、ボリューム、鮮度。そこには従来のAコープにないワクワク感がある。だから広域から多くの人が訪れる。「わざわざの店」ならではの新たなオンラインニーズも生まれる。遠くに住む身内や友人に売り場の感動を贈りたいという気になるのである。いわゆる「感動が生む効果」だ。しかし、広い商圏と少なくない生産者が必要な大型直売所を大量出店することは難しい。

産直の今後は消費者次第

 全国各地に自分がつくった商品を直接届けたいという生産者は少なくない。しかし、輸送費と販売単価の問題の解決は容易ではない。総務省の家計調査から推計する1人あたりの生鮮食品への年間支出は、青果物で3万円余り、鮮魚では2万円にも満たない。1日あたりだと、どちらも100円に届かない支出だ。100gあたりの購入価格も鮮魚で200円を下回り、青果物は50円にも達しない。数㎏単位で購入したとしても単価は1万円を大きく下回る。配送の手間とコストを考慮すると効率は悪い。さらに、自ら市場を開拓し、それを拡大することも容易でない。その部分を仲介者に依頼すれば、別のコストが発生する。そう考えると、産直の規模拡大と利益確保には高い壁があるということだろう。

 現在、生鮮のオンライン流通は全体の1%に満たないというのが大方の調査会社の分析だ。それを克服し、コロナ以降にさらに売上を拡大するには、安全・安心などのスローガンに加えて、長期にわたる集荷実績と物流基盤をもつ卸売市場の参加など、新形態の試みも必要だ。しかし、その試みがうまくいったとしても、おそらく大部分のニーズは感動を味わえる生産直売所にその軸足を置く。間違いなく、それが多くの消費者のニーズだ。

(了)
【神戸 彲】

(中)

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