2024年04月23日( 火 )

国民の命より「五輪利権」を優先 政治家の劣化、ここに極まり【特別対談】(中)

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元朝日新聞編集委員 山田 厚史 氏
ジャーナリスト/小池都知事の「天敵」 横田 一 氏

 政治家の劣化が甚だしい。「至上最低」(月刊誌の編集者)と酷評された今年6月9日の党首討論は、野党第一党・立憲民主党の枝野幸男代表が五輪開催による感染爆発リスクなどについて質問したのに、菅義偉首相は聞かれたことに答えず、突然、57年前の東京五輪の思い出話を約3分以上も語り続けた。国民への説明責任を投げ出すと同時に危機管理能力の欠如が露わになる醜態を曝(さら)け出したのだ。最高権力者のぶざまな姿は、戦後75年の間に日本の政治レベルが地に落ち、とことん劣化したことを物語るものだ。そんな現実から目を背けたくなる衝動を抑えながら、今回はこうした“劣化政治家”を、対談を通して直視・論評していくことにした。対談相手は、元朝日新聞記者で経済担当の編集委員も務めた山田厚史氏。ネット配信媒体『デモクラシータイムス』代表で『週ナカニュース』『山田厚史の闇と死角』などの番組を多数公開。私が毎週月曜日に配信する「横田一の現場直撃」もデモクラシータイムスの番組群の1つだが、山田氏の番組と同じネタ(菅政権のコロナ対策や五輪開催強行や参院広島再選挙など)を取り上げることは珍しくなかった。そこで共通テーマにおける政治家の言動をチェックしていくことにした。

IOC帝国の植民地日本と“売国奴”菅首相

 山田 五輪の化けの皮が剥がれ、商業主義路線が露わにもなりました。これまでは「平和の祭典」という厚化粧で隠してきたが、コロナ禍でIOCの傲慢さが広く知れ渡るようになった。海外の記者の間では知れ渡ったことではありましたが。

 横田 「アルマゲドン(世界最終戦争)が起きない限り開催する」とか、「菅首相が五輪中止を決めても個人的意見にすぎない」といった暴言がIOC幹部ら関係者から飛び出した。日本の国家主権を否定するような発言なのに、菅首相は抗議すらしなかった。これには驚きました。「日本はIOCの植民地なのか」「IOCはGHQなのか」「日本は占領国時代に逆戻りしてしまったのか」と錯覚するほどでした。

 山田 数々の暴言に菅首相がダンマリを決め込んだのは理解できない。反論しないのでは、そのまま認めたと受け取られる。菅首相はきちんと抗議すべきでした。菅首相が有観客にこだわるのもIOCのために違いないとも見ています。海外のスポンサー関係者を招待するプラチナチケットがありますが、無観客となった場合、「なぜ外国人の観客がいるのか」という批判が相次ぐのは確実です。だから日本人の観客を競技場に混ぜ込むことで、海外のスポンサー関係者を目立たなくするというわけです。

 横田 プラチナチケットを無駄にしたくないIOCの意向を尊重するということですね。IOC帝国の植民地のようなエセ主権国家・日本で、下僕のような菅首相がご主人さまにひたすら尽くしているというおぞましい光景です。

 山田 そこまでIOCにゴマをする菅首相は「売国奴と同じではないか」と言われても仕方がないでしょう。「日本は米国の植民地状態にある」といわれることがありますが、IOC帝国の支配下にもあったということです。

 横田 戦後76年も経って占領下時代に逆戻りするほど、日本の政治は劣化してしまった。菅首相は日本政治史上で最低なのではないか。

 山田 結局、何をやりたいのかよくわからない。そんな人が政治家になって、最高権力者になっていることが問題です。菅首相は能力があったわけではないのに、単に運が良くて総理大臣のポストを得ただけではないか。

 横田 ひたすら権力者に奉公をし続けた“下僕の宰相”といえます。たしかに運が良かった。ポスト安倍を決める自民党総裁選で石破茂・元地方創生大臣が勝ったら、赤木ファイルを公表するなど前政権の不祥事メスを入れて安倍前首相が議員辞職に追い込まれる恐れがあった。石破政権阻止が至上命令となり、頼りない岸田文雄・元政調会長に代わって官房長官だった菅首相が急浮上することになった。菅政権は、緊急避難的な消極的選択の産物だったのです。

 山田 とにかく菅首相は腰巾着のように安倍首相に仕えました。ただし第二次安倍政権で7年以上も官房長官を務めた以外、目立った実績はありません。

盛り上がりに欠けた自民党総裁選
盛り上がりに欠けた自民党総裁選

昭和との違い~政治家が劣化した要因

 山田 昭和時代はもっとまともな政治家が多かったのに、なぜ、ここまで政治家が劣化してしまったのか。自民党を見ると、“家業”で政治家をやっている世襲議員が半分くらいです。二世どころか三世もいます。安倍前首相にしても、小泉進次郎環境大臣にしても三代目です。一方、実業家出身者や元官僚、あるいは二階幹事長や菅首相のような地方議員から這い上がっていく叩き上げの政治家もいますが、圧倒的多数を世襲議員が占めているのです。

 横田 実力でのし上がった国会議員が少なくなる一方、地盤・看板・カバンを引き継ぐことができる世襲議員の割合が増えていった。それに従って、政治家が劣化していったというわけですね。

 山田 戦後間もないころは吉田茂・元首相にしても池田勇人・元首相にしてもある種、日本をいかに再建していくのかという国づくりに取り組んだ。そんな時代の政治家と、世界有数の経済大国のなかで育った政治家ではまるで環境が異なります。戦後復興という大きな目標がなくなったのであれば、新たな時代における目標を見つけないといけなかったのに、それができなかった。1980年代で頓挫した産業界を取材しても同じ思いを感じましたが、政治の世界でも同じことが起きたのです。その結果、永田町では権力をどう奪い取るのかという権力奪取ゲームの場となっている。

(つづく)

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