2024年03月29日( 金 )

日本もカモにされた米軍によるアフガニスタン統治の失敗(中)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

アメリカ軍 イメージ しかも、アメリカ政府はこうした膨大な復興経費や戦費を借入金で賄ってきていた。その利払いは5,000億ドルに達しており、今後も返済が続くものである。加えて、戦闘中に負傷あるいは死亡した米軍兵士への補償金や治療費は増加の一方であった。すでに1,750億ドルに達しており、こうした戦傷兵への補償費や医療負担は年々大きくなるばかりだ。

 実は、アフガニスタンは石油、天然ガスやレアメタルなど地下資源が豊富であり、日本企業も開発には前向きであった。ところが、アメリカ政府はテロとの戦いに拘り、日本の商社や石油会社を排除し続けた。アメリカ軍によるアフガン侵攻が始まった当時の小泉首相はブッシュ大統領からの要請を受け、2兆円をはるかに超える復興支援金をアメリカに貢いできたにも関わらずである。

 さらに始末が悪いのは、アメリカ軍とアフガン政府はタリバンと裏で手を結び、麻薬ビジネスに手を染めていた。筆者は以前、15カ国での取材を基に、『アフガン暗黒回廊』(講談社)を出版し、そうした「アメリカの戦争ビジネスの闇」を明らかにした。

 今回のガニ大統領の国外脱出劇や首都カブールの陥落を見ていると、46年前の「サイゴン陥落」を思い出さざるを得ない。当時も南ベトナムの最高指導者グエン・バン・チュウは北ベトナムの攻撃でサイゴンが陥落すると見るや、7,300万ドル相当の金塊をもってアメリカに亡命したものである。受け入れたアメリカはボストン郊外の高級住宅をあてがい、終生、破格の待遇で庇護のもとに置いていた。

 今回のガニ大統領も初代のカルザイ大統領の下で外務大臣を務めていた。その当時から、アメリカのみならず日本を含む国際社会からの復興資金をすべて管理する立場にあった。そうした立場を利用して、海外からの支援金を国内の利権確保のためのワイロに使ったことが判明している。

 最も深刻な犯罪行為は大統領に就任した後、カブール銀行から10億ドル近い現金を詐取したことである。その片棒を担いだ仲間は15年の懲役刑を宣告されたが、ガニ大統領は無罪放免されている。こうした大統領自らが汚職、公金横領に血眼になっていたわけだ。

 とはいえ、こうした腐敗の元凶をつくってきたのは歴代のアメリカ政府による「金権支援体質」であったことは否定できない。残念ながら、日本政府も日本企業もアメリカに「地下資源利権」というエサをぶら下げられ、見事に食いついたわけだった。しかし、資源開発プロジェクトは空手形で終わってしまい、アメリカの石油大手ユノカルなどが売り込んできたパイプライン計画などもすべて絵に描いた餅のままである。

 そして、今日のタリバンによる首都奪還という緊急事態に直面しながら、肝心のアメリカではバイデン大統領とトランプ前大統領が「カブール陥落」の責任をめぐって非難合戦に忙しい。これではまったく頼りにならない。

 バイデン大統領曰く「アフガンのことはアフガン人に任せたい。アメリカ軍は予定通りに撤退する」。8月31日に最後の米軍機がカブールから脱出すると、バイデン大統領は「アメリカ人の退避作戦は完了した。米軍は任務を達成した」と自画自賛。アメリカがここまで事態を悪化させてきたという認識も責任感も感じられなかった。これでは、アフガニスタンの未来は漂流し、多くの難民が溢れ、テロの温床が拡大することになるだろう。

 思い起こせば、1945年(昭和20年)の8月20日、日本を占領した連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥が愛機バターン号から厚木飛行場に降り立った。例のサングラスにコーンパイプ姿で、初めて日本人の前に登場したわけだ。その日から6年間でマッカーサーは日本国内の政治、経済改革に取り組み、戦後日本の基盤をつくり上げた。彼が2000日の統治を終えてアメリカに帰国する際には、25万人を超える日本人が別れを惜しむように沿道を埋め尽くし、感謝の気持ちを表したものだ。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

(前)
(後)

関連記事