2022年05月19日( 木 )
by データ・マックス

日本もカモにされた米軍によるアフガニスタン統治の失敗(前)

国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

星条旗 イメージ ロシアからの報道によれば、アフガニスタンのガニ大統領は迫りくるタリバンに恐れをなしてか、首都カブールから家族や側近とともに1憶6,900万ドルの現金をもってアラブ首長国連邦(UAE)に脱出してしまった。同大統領は「自分がいれば、流血の惨事が起きることが懸念された。そうした事態を避けるため、国外脱出の道を選んだ」と開き直っている。アフガニスタン政府はインターポールを通じて、ガニ大統領の逮捕を要請しているようだが、有名無実であろう。

 しかも、ガニ大統領の娘は早々にアメリカのニューヨークに移住しており、母国の混乱状態を尻目に優雅な買い物三昧の日々を送っていることがアメリカのメディアによって報じられている。実は、以前のタリバン政権下と違い、アメリカ軍の統治下では女子教育が進み、女性の社会進出も加速したと宣伝されているが、これは誇大広告に過ぎない。

 アフガニスタンの現実は依然として厳しく、6歳から14歳の女子のうち、学校に通えていたのは3分の1以下であった。成人でも女性で文字の読み書きができるのは37%に過ぎない。200万人を超える女児たちは貧しい家計を支えるため働いており、学校に通えるような状況にはなかった。ガニ大統領の娘のような特権階級のアメリカでの優雅な生活は望むべくもないことである。

 残念なことであるが、2001年から2021年までの20年におよぶアメリカ政府やNATO軍の支援があったにも係わらず、アフガニスタンの経済再生は思うような成果を上げることができなかった。確かに、アメリカ政府は「アフガンのために2.3兆ドルもの資金を投入した」という。

 しかし、その大半は国防総省の軍事予算であり、残りは国務省の経費として露と消えてしまったと言っても過言ではない。復興支援金に関していえば、その大半がアフガンの政府軍の勧誘や訓練に使われていた。とくに注目すべきは1.5兆ドルもの予算が軍事費に投入されたことである。8万発の爆弾やミサイルが投下され、テロ集団のみならず一般のアフガン人の命も多数失われた。

 アフガニスタンの国民生活は期待されたほどの改善は見られず、国民の不満は高まる一方で、「アメリカの傀儡政権よりタリバンのほうがましだ」という雰囲気が蔓延していた。一般国民の生活は1日1ドルから2ドルで賄うという極貧状態が続いている。さまざまな要因が指摘されているが、政府崩壊の最大の原因はアフガニスタンの国民感情を理解しないまま、「テロとの戦い」と称して、「9・11テロ」以降、アフガンへの軍事介入を続けてきたアメリカの「軍需産業優先」政策に見出せるだろう。「お金をつぎ込めば、治安を回復できる」と高を括ったようだが、そのお金は一部の為政者を潤わせただけだった。

 しかも、アメリカ軍は890億ドルを投入し、「アフガニスタンの政府軍30万人の兵士を養成した」と宣伝してきたが、わずか7万人のタリバン兵に蹴散らされた挙句、戦う前に敵前逃亡する有り様だった。8月15日、首都カブールがタリバンに奪還された際にも、アフガンの政府軍はタリバンに対して1発も撃ち返すことはなかった。それどころか、政府軍の幹部らはアメリカの武器や弾薬をタリバンに横流して、私腹を肥やしてきたのである。

 要は、「お金で国民の意思を買うことはできない」ということである。米軍が投入した資金のうち、155億ドルはアメリカ政府の会計検査によっても「まったくの無駄金であった」と糾弾されているほどだ。アフガン駐留の米軍やCIAの幹部は「タリバンなど反政府勢力の懐柔」という名目で大量のドル紙幣をアフガン政府の要人に配っていた。ところが、そうしたタリバン対策費の多くはカルザイ前大統領やガニ大統領らの私腹を肥やしただけだった。

 そうした腐敗の現場を見聞きするアフガニスタンの兵士や警察官の間では「自国を自力で再生させる」意思も気概も育っていなかったのである。当然のことであろう。アフガンの兵士や警察官はタリバンが近づいてくるとわかると、制服を脱いで、自宅に逃げ帰るという体たらくであった。これでは勝敗は戦う前から決していたといえるだろう。

 「トランスペアレンシー・インターナショナル」の調査によれば、アメリカ軍の支配下にあるアフガニスタンの汚職、腐敗レベルは「世界最悪」と判定されてきた。2009年に公表されたOECDの報告書でも「アフガン政府のワイロ体質は前例がないほど悪質」と断定されていた。

 ところが、アメリカ政府もアフガン駐留の米軍司令部もお金や爆弾をばらまけば、治安も経済も回復するとの幻想に囚われていたようで、現地の実態を正確に把握し、アフガン国民の生活改善に資するという発想は希薄だったとしか言いようがない。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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