2022年01月25日( 火 )
by データ・マックス

ストラテジーブレティン(293号)サプライチェーン混乱とインフレの展望、日本への影響(前)

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年11月1日付の記事を紹介。

(1) サプライサイドの混乱の大半は一過性、フレンドリーな金融政策続く

伏兵、供給チェーン寸断

 コロナパンデミック勃発直後、需要不足による大不況が心配されたが、果断な政策(各国政府の財政金融の一体緩和とセーフティーネット構築)によりそれは回避された。しかし今、供給制約が大きく高まり経済を攪乱している。米国の2021年3Q GDP伸び率(年率)は2.0%と、1Qの6.3% 、2Qの6.7%から大きく落ち込んだが、その主因も供給サイドの制約で潜在需要に応えきれなかったためと見られる。

図表1: 米国実質GDP推移/図表2: 米国実質消費推移

 供給制約はいたるところに広がっている。サプライチェーンの寸断による半導体不足、自動車生産の落ち込み、資源不足による天然ガスや原油価格の高騰、など、かつてない事態が頻発している。

平静さ保つ金融市場

 ただ金融市場は平静さを保ち、米国株式は最高値更新を続け長期金利上昇も限定的である。政策に対する信頼、FRBのインフレは一過性、との見方に納得しているからであろう。しかしより本質的な安心感は、FRBの基本方針として、供給制約が原因で起きるインフレには、利上げで対応しないという、オイルショック時以降の教訓が共有されているのであろう。

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 油ショック当時、米国では、安易な賃上げとそれの販売価格への転嫁という慣習が定着し、製造業のユニットレーバーコストが毎年大きく上昇する悪循環に陥っていた。Golden 50’、60’の繁栄の時代の名残から、独占度を高め価格支配力が強まった企業と、AFL/CIOに加盟する強力組合に組織化された労働者との間で、コスト増を付け回すことが慣行化していたのである。1970年代の高インフレとドルの切り下げはその帰結であった。石油ショックは産油国側から見れば減価するドルの価値をリカバーするという合理性があった。安易にコスト上昇を売値に転嫁するビヘイビアの下では、石油価格の上昇が広範な値上げに結びつき1980年には14.5%という歴史的インフレが記録されたのである。翻って今日は、厳しい競争環境の下で賃金と販売価格が決定され、製造業のユニットレーバーコストも抑制されている。石油ショック時のようなスタグフレーションになる条件にはない、と市場は安心しきっているのである。

 物価がマイルドに上昇し、テーパ―リングが始まり、2022年から利上げも開始されるが、株価は安定して上昇していくのではないか。

サプライ寸断の多様な原因、多くは一過性

 ざっと主要なものをチェックすると、供給寸断の原因は多様で、一刀両断にはいか
ないことが明らかになる。

(1) 半導体→ 巣ごもり需要拡大(PC等)、EV化による車載用等新規分野での需要急伸、2018~20年の投資抑制、中国などの在庫買占め(?)、流通段階での在庫積み増し、アジアの部品生産がコロナ禍で急減、等の事情が重なった。

図表3: 半導体製造装置投資額

(2) 自働車→ 半導体不足、ASEAN諸国での部品生産がコロナ禍で急減

図表4: ASEAN各国のPMI推移 ~ 2021年に入りコロナで生産急ブレーキ

(3) トラック運転手不足による輸送チェーンの寸断→ 米英でトラック運転手ひっ迫(コロナ勃発直後に解雇したとがめ)が、輸入品の配達チェーンの末端に目詰まりを引き起こし、コンテナが末端に堆積、コンテナのグローバル循環がストップすることで、国際物流が大きく抑制された。陸揚げできないコンテナ満載の貨物船が輸入港で滞留し、海運市況が急騰した。図表5に見るように米国のコンテナ鉄道輸送が回復しているのに対して、トラック輸送の回復が顕著に遅れている。また図表6は米国西海岸でのコンテナ搬入と搬出の差を見たものであるが、コロナ禍からの回復過程で搬出が大きく落ち込んでいることがわかる。

図表5: 米トラック積載量指数と輸送コンテナ数/図表6: 米国西海岸コンテナ運輸状況~コンテナ搬出-搬入/図表7: 中国発コンテナ船運賃市況 -China (Export) Containerized Freight Index

(4) 石油・石炭・天然ガス→ 天候による風力発電出力の低下(欧州)、中国の石炭生産減少(洪水・COP26に向けてのポーズ?)・豪州炭輸入禁止、ロシアによる天然ガス供給抑制などが直接要因。だが後述するように、2015年以降の低価格時代に川上投資が大きく絞られたことが根本の原因。

 以上主要な供給寸断の分野を概観したが、多くはFRBが分析しているように一過性であり、来年には解消されていくものとみられる。半導体は中国中心に大増産投資が進む。買占めも一巡、モノによっては供給過剰が起きる心配も出てくるかもしれない。東南アジアでのコロナ感染は9月以降大きく低下している。自動車生産もコロナ感染の鎮圧と半導体不足解消が実現すれば正常化できる。商品をコンテナに詰め、船舶と鉄道、トラックでリレー輸送する仕組みは、クリスマスシーズンが終わり末端の滞留物がなくなれば、いったん収まるだろう。しかし、エネルギー関連だけは元には戻らないだろう。原油価格はWTIで80ドル超えてきたがまだ上昇するかもしれない、少なくともここから大きく下がることはない、というのが専門家の見方である。

(つづく)

(中)

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