2024年04月26日( 金 )

天神ビジネスセンター竣工に見るこれからの「都市空間」推論(後)

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機能転用の自由化

空間イメージ ところで建築業界には、この局面でやらなければならない大きな命題がある。「機能転用」の自由化だ。20世紀の建築は、建築基準法に基づいて設計されている。法規に則って、数値や理屈で固められる旧態依然としたプログラムだ。この法規は基本的に“用途が変わらない“ことを原則としたシステムで、機能転用についてはまったく考えられていないと言ってもいい。本来の目的で建てられた建築物を違う用途で使う場合、異なる基準を満たすようにつくり替えなければならないのだ。

 コロナ禍では、感染した人々を隔離するのにホテルを臨時の療養施設に使用したり、体育館のような公共空間を病院として転用したり、客席の密集を避けるために飲食空間を道路まで拡張したりして活用した。本来ならば「用途変更」という設計業務により、役所への届け出、工事申請が必要だし、道路の占有は認められていない行為だ。しかし有事の際に、法律で空間使用の規制をかけられるだろうか。もっと効率の良い使用許可が、UXを高められる空間体験が発明できないだろうかと想像する。

 建築は基本的に、民間主導の経済活動の1つだ。しかし自治体が建てる建築くらいはせめて、建築思想を統治し、共創の足並みくらいはそろえて欲しい。それが地域コミュニティの醸成につながり、市民サービスへ波及するからだ。今後は日本でも、公共スペースや建築物をどんな用途にも自由に使えることが求められるし、そのように変化していかなければデジタル社会で足枷になり、また都市のレジリエンスに適応でき
ない。行政機関の建築から、その刷新が見られることを期待したい。

オフィス街の未来

 テレワークの活用を通じて、働く時間と場所が多様化された。だからと言って、すべてオンライン上でということではない。対面コミュニケーションも必要だ。何気ないおしゃべりで生まれるインプロビゼーション(即興的な思い付き)や暗黙知の伝達には、遠隔通信では得られない性質のアイデアや情報がある。必要な機能は分散させず、コア機能として超集中させる。

 オフィス内は多様な働き方ができる設計にし、フロア内に人が密集しないようにする。場所の再構築、空間の再編集などアプローチは多々ありそうだ。東京一極集中から離脱して分散配置する先陣が、福岡の都心に定着するのか。そういった視点で、今後も天神オフィス街の動向に注目していきたい。

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。

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