2024年05月20日( 月 )

出会い、つながり、奥田流~北九州・希望のまちプロジェクト(3)

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 「支援とは選択肢を増やすこと」。認定NPO法人・抱樸理事長、奥田知志氏(58)はそう言い切る。高みから施すのではなく、同じ地平で、人間の尊厳を守りながら寄り添い、抱き合う。抱樸――とげもあれば傷もある原木をそのまま抱く――の精神は、奥田氏の支援活動において一貫している。

「私自身のため」

 奥田氏がホームレス支援にのめり込むきっかけとしてよく知られるのが、学生時代の大阪・釜ヶ崎での体験である。高度経済成長期のサラリーマン家庭で「何不自由なく幸せに育った」少年が、確たる目的もなく関西学院大学神学部に入り、無為の日々を過ごしていたころ、誘われて訪れた釜ヶ崎で衝撃を受ける。酒と小便が入り混じった臭いが鼻をつくなか、路上に眠る人々。年間、数百人が路上で亡くなっていくがニュースにもならない。死者の名前も故郷もわからないことが少なくなかったという。

北九州越冬実行委員会 中学2年のときに洗礼を受けてクリスチャンになっていた奥田氏は、釜ヶ崎の現状に“神の不在”を思う。しかし、信仰を捨てる気にもならなかった。釜ヶ崎に入り浸り、その悲惨な現状を見れば見るほど絶望感に苛まれるが、「神はいない」と斜に構える余裕はない。逆に「神さまにはいてもらわないと困る。意地でも見つけてやる」という考えに至る。そして現在の東八幡キリスト教会に赴任。1988年から活動を開始した抱樸の前身組織「北九州越冬実行委員会」の事務局長、代表にも就任し、これまでの33年間に3,600人余りのホームレスの自立を支援した。
 長期にわたる支援活動について、今、奥田氏はこう語る。

「かわいそうな人たちを助けなければ、ということではないのです。そうではなく、私自身が誰かに助けてもらわないと生きていけない。これは宗教的な認識も大きいのですが、キリスト教に限らず宗教者というのは神様、仏様に頼らなければ生きていけないと観念した人たちなのです。私自身が許され、愛される、そういう社会でないと生きていけない。だから私自身のためでもある。余裕のある人が、かわいそうな人を助けているという構図ではまったくないのです」

手紙

炊き出し 33年前から続く炊き出し。それはコロナ禍であっても続く。なぜならそれは、今や27事業を展開し単に「ホームレス支援団体」とはいえない規模と多様性をもつに至った抱樸の原点だからだ。炊き出しで1人ひとりに食事を手渡し、その悩みと向き合ってきた。炊き出しは食料や生活物資の補給であるとともに、かけがえのない出会いの場でもあったのだ。

 9月下旬の北九州市小倉北区、勝山公園横広場。炊き出し開始の約15分前、奥田氏が自分でワゴン車を運転して到着した。忙しく歩き回り、集まった人々と笑顔で語り合い、スタッフに話しかける。準備が整ったところで開始のあいさつのためマイクを握った。

 「コロナワクチン接種は、いったん北九州市と協力して設けた枠は終了します。でも、今後も受けたいと思った人は相談してください。また、今日は弁護士の先生も来てくださっています。無料の相談会。借金があるとか、家族ともめているとか、働いたのに給料もらってないとか、悩みがあれば相談してください。今日は牛丼のお弁当です。コロナが一段落したらまた一緒に食べられますが、それまでは各自それぞれで食べてください。お弁当には支援者の皆さんが書いた手紙がついてますよ。はい、それじゃ炊き出し始めまーす」

 参加者が一斉にテント前に列をつくり、弁当を受け取っていく。他の生活物資をもらいに別のテントに走る人もいる。目当てのものを手にした人々は、自分の“すみか”に帰ったり、そこここでおしゃべりしたりしている。「元気しとる?」「この前、新顔がいてさあ」……。弁護士への相談は、生活保護の申請に関することや、借金があるがどう対応するかといった内容だったという。

 炊き出し開始から1時間余り、用意した弁当やほかの生活物資も少なくなり、参加者も三々五々広場を出ていく。これから弁当に添えられた手紙を読みながらの夕食だろうか。「寒くなるので気をつけて」「何かあったら連絡くださいね」などと書かれた手紙。それを見て、孤独な食事をとる人々は何を思うのだろうか。

(つづく)

【山下 誠吾】


<プロフィール>
奥田 知志
(おくだ・ともし)
奥田知志氏1963年生まれ、滋賀県出身。日本バプテスト連盟・東八幡キリスト教会牧師。認定NPO法人抱樸理事長。関西学院大学神学部大学院修士課程修了、西南学院大学神学部専攻科卒業、九州大学大学院博士課程後期単位取得。(公財)共生地域創造財団、ホームレス支援全国ネットワーク、生活困窮者自立支援全国ネットワークなど代表。第1回(2016年度)賀川豊彦賞、第19回(2017年度)糸賀一雄記念賞受賞。著書に『もう、ひとりにさせない』(いのちのことば社)、『いつか笑える日が来る』(同)、『ユダよ、帰れ』(新教出版社)など。

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