一昔前と比べて、私たちの暮らしのなかでの大きな変化の1つとして挙げられるのが、外国人と接する機会が増えたことだ。インバウンド客はもちろんのこと、日本人とともに暮らす在留外国人も増えてきた。さまざまな生活シーンのなかに溶け込んでおり、もはや彼らと関わらずにいては、私たちの暮らしが成り立たない状況となっている。それは福岡県、福岡市においても同様だ。ここでは、在留外国人と共生するまちの在り方について考えてみたい。
帰化人が語る福岡市の魅力と
外国人事情
国際化が進む福岡の様子を、生粋の日本人とは異なる視点で長く見続けてきた人物がいる。ハン国際行政士事務所(福岡市東区)の宮松潔氏だ。日本に帰化し、行政書士として在留外国人の支援のほか、就労・経営管理などビザの取得などをサポートしてきた同氏に、外国人、とくに中国系の人たちが福岡市で生活することについて、どう見ているのか聞いた。

宮松氏はまず日本で暮らすメリットについて、「円安という背景もありますが、何より日本人と同様の行政サービスを受けられるのが最も大きなメリット」と指摘。なかでも、中国系の人たちが重視しているものとして、子女の教育環境を指摘する。東区に在留外国人が多いことをすでに紹介したが、「東区の照葉地区や香椎地区には中国人からの人気が高い小中学校があり、だから移り住んでいるのです」と語っていた。なお、福岡市全体については、「ほど良い賑やかさと落ち着きを兼ね備えているのが魅力で、それが若い外国人を引きつけている理由ではないでしょうか」と述べている。
宮松氏は約34年間日本で暮らしてきたが、在留外国人が日本の地域社会に適応するためには、日本語学習が何より重要だと認識。そこで、今春「福岡国際外語学院」を設立し、第一期生を受け入れている。「日本語教育を通じ、外国人との共生社会の実現に向けて取り組んでいきます」と話した。
<プロフィール>
宮松潔(樊潔)氏
中国・大連市出身。1991年に来日し、日本語学校から大学院までの7年半を留学生として過ごす。2012年に行政書士登録。北九州市などで生活した後、福岡市に14年から居住。不動産、日本語教育、職業紹介なども手がけ、外国人の在留から生活、就労までを支援している。福岡県行政書士会東福岡支部元理事。https://han-gyoseishoshi.jp/
川口市に垣間見る福岡市の未来
最後に、在留外国人の問題で現在、最もホットな状況にある都市である埼玉県川口市の状況に触れたい。正確には同市と隣接する蕨(わらび)市の周辺地域であるが、中国系やクルド系トルコ人を中心に、多様な国籍を持つ在留外国人が数多く居住。生活習慣の違いなどから、地域住民とのトラブルが増え、報道はもちろん、国会でも問題が取り上げられている。今後の外国人との共生の在り方を探るうえで、注目せざるを得ない都市だ。
川口市の24年1月1日時点における総人口(住民基本台帳ベース)は60万6,315人。このうち外国人は4万3,128人で、外国人比率は7.1%だ、同じく蕨市においては総人口7万5,646人のうち外国人が8,476人で、比率は11.2%となっている。日本全体の人口1億2,359万人(25年1月1日時点)に対して、外国人数は376万人(24年末)となっており、外国人比率は3.0%。単純には比較できないが、この数値から両市の外国人比率が非常に高いことがわかる。ちなみに、福岡市で最も外国人居住者が多い東区は24年4月末時点で人口が33万8,388人、外国人は1万4,849人であり、外国人比率は4.3%だ。
川口市は東京都北区と足立区に隣接し、JR川口駅・西川口駅などを利用することで都内へのアクセスが良く、かつ家賃相場も都内に比べて割安であり、外国人居住者にとって暮らしやすい環境にあった。中国系住民の増加は、もともと住民が多い地域だったことに加え、JR西川口駅周辺にあった多数の風俗店が04年に埼玉県警によって摘発され、一斉立ち退きとなった後に、中国系経営者による中華系飲食店街が形成。それによって、中国人住民が周辺にさらに流入したためだ。
クルド人住民が川口市に住み始めたのは約30年前。出稼ぎで来日したイラン人住民の定着がルーツだと言われている。クルド人は国をもたない民族であり、トルコ国内での「差別」(その事実はないとの説もある)を理由に、難民として来日。その家族も来日し、国内最大のクルド人コミュニティが形成された。
一部で治安の悪化が心配されるようになったが、自治体や自治会、各種団体などが共生に向けたさまざまな取り組みを行っているのも川口市の特徴だ。たとえば、芝園団地は日本人住民よりも中国系を中心とした外国人の入居者が多い団地として有名だが、彼らにゴミ出しなどの生活上のルールを伝えるなど、共生のための仕組みづくりに注力している。JR西川口駅周辺の店舗は、主に中国人住民をターゲットとした日本語表記のない飲食店が建ち並ぶが、他にはないユニークな街並みを形成しており、それが地域の魅力の向上につながっている側面もある。
現在、川口市で起こっている在留外国人との共生の問題は、そう遠くない将来の福岡市においても起こり得ること。そうした動向も注視しながら、今後のまちづくりに生かしたいものだ。

(了)
【田中直輝】

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