どこまで延びる人間の寿命:中国、アメリカ、日本の競争と協力の可能性

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、11月14日付の記事を紹介する。

 本年9月、北京で開催された大規模軍事パレードの際、習近平国家主席とプーチン大統領は「延命長寿」談義に花を咲かせていました。「これからは医学や科学の進歩で、150歳も当たり前、永遠の命も不可能ではない」と2人で大いに盛り上がったようです。

 実際、中国では国家を挙げて、延命長寿に関する研究が進んでいます。習近平国家主席の肝いりで、人民解放軍の医療機関を中心に潤沢な予算が割り当てられているようです。

 中国南部の先端研究ビジネスで知られる深圳の長寿医療のスタートアップ企業「ロンヴィ・バイオサイエンシズ」の研究所は、その最先端を走っています。「150歳まで生きることは間違いなく現実的だ」と、ブドウ種子抽出物に含まれる化合物をベースにした抗老化薬「PCC1」を開発している同社の最高技術責任者、リュ・チンファ氏は自信たっぷりに発言。

 同研究所ではPCC1から抗加齢薬を開発し、マウスの実験では「ゾンビ細胞」を除去することで寿命を最大64%も伸ばすことに成功したと強調。しかも、「数年後には、人への応用が現実のものとなるだろう」とも楽観的な展望を語っています。

 しかし、現代医学が死を完全に克服することについては懐疑的です。プーチン大統領は「臓器移植でそれが可能だ」と述べていますが、「死を完全に克服すること」は至難のワザでしょう。

 とはいえ、長寿科学は急速に進歩しており、一見不可能と思えることさえ実現するかも知れません。人類の歴史はSFではありませんが、想像できるものは何でも創造してきたわけですから。少なくとも、「5年から10年後には、誰もがんに罹らなくなるだろう」とチンファ氏は予測しています。

イメージ    近年、ピーター・ティール氏のようなアメリカのハイテク産業界の大富豪たちが熱心に取り組んでいるのが不老不死薬に他なりません。実は、こうした探求は、中国では2000年以上も前から行われています。

 先鞭を付けたのは秦の始皇帝で、中国国内に留まらず、海外にまで不死の薬探しを命じたことで知られています。しかも、万が一それがうまくいかなかった場合に備えて、始皇帝は墓の中で死を免れるために数千体の兵馬俑を造らせました。残念ながら、始皇帝は49歳で亡くなったのですが、抗老化治療による水銀中毒が原因だったようです。

 そうした歴史を持つ中国は、バイオテクノロジー、人工知能(AI)、その他の先進技術において欧米諸国に追いつき、できれば追い越そうと躍起になっており、長寿産業を国家の重要課題と位置付け、研究と関連事業に莫大な資金を投入しています。

 昨年、中国の平均寿命は79歳に達し、世界平均を5歳上回りました。確かに、医療と生活習慣の着実な改善によって達成されたわけですが、日本の平均寿命約85歳には依然として及ばず、習近平国家主席が述べた150歳には程遠いのが現状です。

 この状況を何とか突破したいと習主席は軍や党の高官を専門に治療する北京のエリート軍病院への期待を込め、「2030年までに結果を出せ」と発破をかけていると言われています。その背景には、1976年に82歳で亡くなった毛沢東や、1997年に92歳で亡くなった鄧小平といった指導者たちの命を救うために、同病院が数十年にわたって尽力してきたことがあるに違いありません。

 そうした国家的な政策と財政的支援の下、冒頭のハイテク企業を始め多くの企業が研究開発にしのぎを削っています。また、がん克服の潮流に乗っている中国企業の一つが「タイム・パイ」です。同社は上海に拠点を置き、栄養補助食品の販売からスタートし、現在は科学会議を主催し、『Aging Slow, Living Well』という雑誌を発行し、アメリカを始め内外の投資家から注目を集めています。

 実は、日本の医療機関や研究者の間でも、こうした中国における「老化細胞を選択的に死滅させる研究や錠剤の開発」には関心が寄せられているのです。今後、人類共通の願望ともいえる「健康長寿」の実現に向けての共同研究が期待されています。


著者:浜田和幸
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