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2021年11月19日 10:00

『競争と情報』~未来予測力と危機管理力の強化~(4)

日本ビジネスインテリジェンス協会会長
日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科講師
東京経済大学経営学部・大学院経営学研究科元教授

中川 十郎 氏

続・リスク管理と情報活用

ネットワーク イメージ リスク管理を有効に行うには、効果的なリスク対応システムを構築し、リスク情報の収集、評価、分析、活用で予測力を強化すること。リスクを戦略的に管理し、まずリスクを発生源から絶つことが必要である。そのためには効果的に関連情報を収集、分析し、対症療法的な事後処理よりもリスク予防に注力することである。

 これがグローバルな規模でビジネス競争が激化し、それにつれて巨大化しつつあるビジネスリスクを管理するためのカギである。その最適なケーススタディとして、1997年のタイ金融危機に際し、リスク管理に成功したM社の対応を以下で考究したい。

 97年7月2日のタイ通貨危機は、半不可避的なリスクである為替変動が主因とみられる。この半不可抗力リスクに対し、M社は金融、経済情報をうまく活用して事前に為替をヘッジし、為替差損を回避。逆に利益を計上できた。このケースは「リスク管理における情報活用」の典型的な知識情報戦略の成功例である。

 この成功事例を詳しく調べてみると、M社は情報収集、早期警戒通報、リスク危機管理対策などの優れた全社的な情報システムを96年4月に140億円もの巨費をかけて他社に先駆けて構築していたことがわかる。

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 M社は国内7,000台、海外5,000台のパソコンを各従業員に1台ずつ配布し、すべての政治、経済、金融情報を収集して迅速に本社へ連絡し、情報を最大限に活用する、いわゆるアーリーウォーニング(早期警戒警報)システムを完成させていた。この情報システムで収集した金融、経済情報を基にタイ・バーツ危機を予測し、バーツを事前に全社的にヘッジしたのである。

 この情報システムは、経営幹部向け意思決定支援システムとリスク管理情報システムから成り立っている。M社のこの金融、経済危機対応策は今次の世界金融・経済危機のリスク管理でも貴重で、かつ極めて有益な教訓と示唆を与えてくれるものである。 

 この背景には、同社が70年代から80年代にかけてイラン石油化学プロジェクトで累計4,000億円もの巨額損失を被り、その対応に多大な時間と経費を費やしたことがある。

 このときの苦い経験が情報の重要性を全社的に認識させることになり、他社に先駆けた情報システムを全社的に構築した最大の要因であると思われる。

 その後、有力競合商社のS社でも情報の重要性を認識し、経済・産業・社会の調査、分析に注力。戦略策定のための経済・政治など外部環境情報、つまり資源エネルギー価格の動向、国際金融における構造変化、地球温暖化問題、新興市場の中国やインドなどの有望産業の調査・分析システムを構築した。

 外部環境の調査、分析力を強化して経済・政治環境の変化を先取りし、全社的な中長期の経営戦略策定に役立てるビジネス情報システムを完成させ、ビジネスインテリジェンスの収集、分析、活用に注力し、成果を挙げている。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

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