2024年04月26日( 金 )

『競争と情報』~未来予測力と危機管理力の強化~(5)

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日本ビジネスインテリジェンス協会会長
日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科講師
東京経済大学経営学部・大学院経営学研究科元教授

中川 十郎 氏

情報管理と機密保持

機密保持 イメージ ビジネスインテリジェンス(高度経済・経営情報)の目的は3つある。すなわち(1)既存の事業、ビジネスの深耕・拡大。新規事業・ビジネスの創出、(2)情報の機密保持、(3)リスク・クライシス(危険・危機)管理である。このうち筆者は企業経営の観点からはとくに機密保持とリスク管理が大切だと考えている。

 前回も言及したビジネスインテリジェンスの世界的権威で、情報のグルとも目されるスウェーデンのステバン・デデイジェール博士は1972年、世界に先駆けて取り入れたルンド大学の情報教育において「機密保持が最重要」だと指摘。企業情報の機密保持、国際情報と機密保持、守秘義務、情報機密保全戦略、国家情報の機密保持、知識情報源と情報監査などのシラバスでとくに機密保持教育に力を注いだ。

 情報教育が遅れているうえに、効果的機密情報保護法も整備されていない我が国では情報管理と機密保持がずさんで、日本は世界から「スパイ天国」だとみなされている現状である。知識情報戦略の時代を迎え、国際場裡で経済情報戦争が激化する21世紀の我が国にとって、由々しき事態である。

 かつて米CIA長官だったターナー提督は「これからは軍事力よりも経済情報が国家の競争優位の基盤となる」と喝破。元米国防次官補でハーバード大学ケネディスクール学長のジョセフ・ナイ教授は「米国は”核の傘“から”情報の傘“戦略への転換を行う必要がある」と主張。クリントン・ゴア政権は国際化、情報化時代の情報戦争に備え、「情報スーパーハイウエイ」、「グローバル情報基盤」戦略を打ち出したことで有名だ。

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 経済情報活動に熱心なフランスでは94年にマレ報告書「経済情報と企業戦略」を首相官房から発刊。世界各国の経済情報収集活動の現状に加え、米国の国家産業機密保持計画を早くから研究している。これと関連してフランス軍事情報学校長ピチェ・ダクロス大将は「経済情報は冷戦後の武器となった」と発言し話題を呼んだ。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

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