2024年05月05日( 日 )

社会インフラの整備・維持を通じて、地域に貢献・信頼される建設コンサルに

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(一社)建設コンサルタンツ協会九州支部
支部長 田中 清 氏
/第一復建(株) 代表取締役会長

市民目線の自由なまちづくり提案、支部独自の「夢アイデア」事業

 ――貴支部では、広く一般の方々からまちづくりに関するアイデアや提案を募集する「夢アイデア」という面白い取り組みをされています。こちらはどのようなきっかけで始まったのでしょうか。

(一社)建設コンサルタンツ協会九州支部 支部長 田中 清 氏 /第一復建(株) 代表取締役会長
(一社)建設コンサルタンツ協会九州支部
支部長 田中 清 氏
第一復建(株) 代表取締役会長

    田中 この夢アイデアは、最初は「まちづくりに関する提案募集」という名前で02年から始まった当支部独自の取り組みで、始まったきっかけは、当時の副支部長からの発案でした。

 そもそも我々は建設コンサルタントとして、まちづくりに関する企画や設計などを仕事として行っていますが、本来のまちづくりとは専門家による上から目線ではなく、一般市民が主体となって、地域の豊かさを追求していくために自ら行っていくのが理想ではないだろうか。公共事業もガチガチにお堅いものばかりでなく、もっと夢があってもいいのではないか――といったような考えの下、それなら「広く一般の方々から、まちづくりに関する夢のある提案を募集しよう」ということで始まったのが、この夢アイデア事業です。

 スタートしてから約20年になりますが、おかげさまで毎年たくさんの応募をいただき、寄せられた夢アイデアは1,000編近くになります。

 ――12月4日に「夢アイデア交流会2021」を開催され、最終審査に残った10名の応募者によるプレゼンテーションと、その後の審査および各賞の選定が行われました。専門家による硬派なアイデアから、子どもによる夢いっぱいのアイデアまで、バラエティーに富んだ作品の数々だったのが印象的です。

 田中 夢アイデアでは、応募資格にとくに制限は設けておりませんし、九州に限らず、全国各地から応募することができます。まちづくりや地域振興、観光、景観、環境、子育てなどテーマも自由ですし、応募する際の書式や形式も自由です。そのため、下は小学生の子どもから上は80代の方まで、北は北海道から南は沖縄まで、幅広い年齢層および全国各地から、さまざまな夢アイデアの応募があります。

 先の交流会では各応募者のプレゼンを踏まえて、私を含めた6名の審査員によって最優秀賞1編と優秀賞4編が選ばれました。ただし、この審査についても、実は明確な基準があるわけではありません。実現可能かどうかが必ずしも評価されるわけでもないですし、どちらかというと、いかに夢にあふれてワクワクさせるか、いかにプレゼンに熱量があるかなどを、各審査員の主観で評価している部分はあります。また、交流会の一般参加者全員による投票結果も参考にします。ちなみに、今回優秀賞の1つに選ばれたのは、小学5年生が考えてくれた「子どもが安心・安全そして楽しく遊ぶ公園改造プログラム」という公園に関する夢アイデアでした。

 なお、この事業では単に夢アイデアの募集を行うだけでなく、その夢アイデアを実現化させたものもいくつかあります。たとえば、ヤギや羊の放牧で公園の除草を行う「ヤギ・羊ECOプロジェクト」では、実際に福岡市都心の舞鶴公園での除草実験を行っています。また、宮崎県西米良村での「思い出NAVIプロジェクト」では学生と地域の人々との連携で実際の地域活性化に向けた取り組みを展開しています。

 これからも夢アイデアの募集を通じて、自分たちの住む地域をもっと良くしようと真剣に考えてくれる市民の増加に寄与するとともに、ひいては建設コンサルタントという仕事の魅力を伝え、業界に若い人たちを呼び込むためにも、この事業は継続して取り組んでいきたいと考えております。

夢アイデア交流会
夢アイデア交流会

改正品確法を“錦の御旗”に、業界環境の改善につなげる

 ――ところで、「公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律」(以下、改正品確法)が19年6月に公布・施行されました。業界にとっては、どのような影響があったのでしょうか。

 田中 今回の改正品確法のポイントは大きく4つあり、「災害時の緊急対応の充実強化」「働き方改革への対応」「生産性向上への取り組み」、そして「調査・設計の品質確保」です。この4番目に挙げられている「調査・設計の品質確保」こそが、我々の業界にとっては、最も大きく変わった点です。というのも、改正前の品確法は、ゼネコンをはじめとした建設業者主体の法律でしたから、我々のような建設コンサルタント業務というのはおまけのような位置づけで、表現としても「…に準ずる」というような言い回しにとどまっていました。それが、今回の改正では我々の業務が法の下できちんと明文化されておりますので、業界としては大きな追い風というか、いわば“錦の御旗”を賜ったようなものです(笑)。

 たとえば働き方改革の推進にあたっては、そもそも我々の業界では年度末にあたる3月に工期が集中し、それにともない我々の業務も輻輳(ふくそう)して、各社ともこの期間の残業時間が膨大になってしまう、というような悪習がありました。しかし、労働基準法が変わって労働時間の上限規制ができたなかでは、これまで通りのやり方では難しく、発注者側に対しては「ぜひ平準化してほしい」というのが、業界全体の要望でした。それが今回の改正品確法では、「働き方改革への対応」が掲げられていますから、発注者側にも堂々と言えるようになりました。これは大きな変化です。

 そのなかでも、先ほど申し上げたように「調査・設計の品質確保」が盛り込まれたことが、業界にとっては最も大きいと感じています。調査・設計というのは、社会インフラ整備を進めるうえでは入口にあたりますから、契約段階でどの企業が受注するかの選定が、最終的な品質確保を大きく左右します。発注者が国土交通省の場合は、プロポーザルや総合評価方式などで、きちんとした技術力のある会社が受注できるための仕組みができているのですが、地方自治体のなかには、まだ価格やくじ引きで受注企業を決定しているところがあります。くじで決めるやり方では、当然ながら品質の確保は担保できません。そうした発注者側に「技術力での選定をしていきましょうよ」と提言する際にも、「改正品確法に調査・設計の品質確保が盛り込まれていますよ」と、この“錦の御旗”が効力を発揮するわけです。

 やはり、技術力の高い企業が受注すれば、最終的な成果品の品質が上がりますし、そうした社会インフラ整備の品質が上がれば、社会貢献にもつながります。そうすると、社会貢献に資する仕事をやっている我々の業界が魅力ある職業と認識され、そこで働く技術者のモチベーションの向上にもつながりますし、ひいては建設コンサルタントを希望する人が増えて、若い人材の確保にもつながります。そうした業界にとっての良い流れ、良い業界環境をつくっていくためにも、今回の改正品確法の施行は大きな追い風になると感じています。

 ――最後に、建設コンサルタント業界の今後についてご意見をお聞かせください。

 田中 国土交通省では23年度までに、小規模を除くすべての公共工事でのBIM/CIM原則化を行っていく方針です。また、i-ConstructionやAI活用といったインフラDXなどの日進月歩の技術革新によって、これまでの業務の進め方・やり方がガラッと変わろうとしています。こうした動きは、業務全般の生産性向上につながり、働き方改革の推進などにもつながるものと見ています。ただし、これを国策として進めていくのであれば、大手ばかりが先行するのではなく、地域の中小企業などが取り残されないようにしなければなりません。私独自の試算では、こうしたインフラDXの設備投資には(BIM/CIMやテレワークのみをとっても)技術者1人あたり年間80万円ほどのコストがかかり、営業利益が吹っ飛んでしまうほど中小企業にとっては大きな負担となります。こうした業界全体としての課題に対しては、建コンとしても、九州支部としても、解決に向けて取り組んでいかなければならないと感じています。

 我々建設コンサルタント業界は、社会インフラ整備を進めるにあたってのフロントローディングを担っています。業界環境をもっと良くするため、そして会員企業の各社が健全な経営を保ちながら事業を通じて社会に貢献していくためにも、これからも建コンおよび当支部はさまざまな取り組みを通じて、事業者の技術的パートナーとしての活動を続けていきます。そして、地域に貢献し、皆さまに信頼される建設コンサルタントとして、さらなる成長に向けて邁進していきたいと思います。

【坂田 憲治】


<プロフィール>
田中 清
(たなか・きよし)
1952年7月、福岡県糟屋郡須恵町出身。九州大学工学部水工土木学科卒業後、77年4月に第一復建(株)に入社。取締役執行役員、常務執行役員、専務執行役員などを経て、2016年9月に代表取締役社長に就任。20年9月に代表取締役会長。(一社)建設コンサルタンツ協会九州支部では、副支部長を経て21年4月に支部長に就任した。


<INFORMATION>
(一社)建設コンサルタンツ協会九州支部

支部長:田中 清
所在地:福岡市博多区博多駅東1-13-9 いちご博多駅東ビル8F
設 立:1968年6月
TEL:092-434-4340
URL:https://www.jcca.or.jp/kyokai/kyushu

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