2024年05月19日( 日 )

九州が日韓の交流活性化を先導 将来を見据え、戦略産業振興の協力を(前)

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駐福岡大韓民国総領事
李 熙燮 氏

 新型コロナウイルス感染症などの影響により、韓国など隣国との人的往来がほぼ断絶した現在、駐福岡大韓民国総領事の李熙燮氏は、九州が日韓の交流活性化を先導することを提唱する。李氏は昨年、長年の懸案事項を解消し、日韓の交流促進の環境改善に努めた。今年は引き続き、草の根・民間および地方自治体間の交流を促進するとともに、将来を見据え、グリーンニューディールなど戦略産業の振興や超広域経済圏の実現のための協力を模索する。

原爆犠牲者慰霊碑建立など長年の懸案事項を解決

 ──総領事館として2021年はどのようなことに重点を置いて活動した1年でしたか。

駐鹿児島名誉総領事館 開館式
駐鹿児島名誉総領事館 開館式

    李熙燮氏(以下、李) 21年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて緊急事態宣言の発出が繰り返されるなど、諸般難しい状況のなか、総領事館の活動も多くの制約を受けました。韓日関係が冷え込んでいたところにコロナ禍が加わり、率直に言って韓日間の直接の交流が断絶するかのように思わせるほどの倦怠的なムードさえも漂いました。このような環境のなか、私たちとしては、活動の重点をこれまでの懸案事項および宿願となっていた課題を解決し、このような倦怠的なムードに活力を吹き込むことによって、草の根・民間交流の裾野を広げるとともに、友好親善の環境を整えることに置き、さまざまな活動に尽力しました。

長崎・原爆犠牲者慰霊碑 除幕式
長崎・原爆犠牲者慰霊碑 除幕式

 たとえば、私が20年11月に福岡に赴任した当時の大きな懸案事項は長崎韓国人原爆犠牲者慰霊碑の建立問題と駐鹿児島韓国名誉総領事館の設置問題であり、21年はこの2つの懸案事項を解決しました。前者は在日同胞にとっての宿願の事業でした。広島では1970年に韓国人原爆犠牲者慰霊碑が建設されていますが、一方長崎では進んでおらず、13年に建立委員会が設立されていたものの、諸般の事情から膠着状態にありました。赴任後、長崎市議会などに働きかけ、建立計画が再び動き出すようになり、21年11月に長崎市の平和公園にて除幕式を執り行いました。今後、慰霊祭などの行事を行えるようになり、安堵しています。後者について、前名誉総領事の第14代沈壽官(薩摩焼の名跡)が18年に逝去した後に閉館となっていましたが、21年2月、15代沈壽官の大迫一輝氏が韓日両国政府の承認を得て駐鹿児島韓国名誉総領事に任命され、4月に鹿児島県日置市の沈壽官窯にて名誉総領事館開館式を執り行うことができました。15代沈壽官は両国の架け橋としての使命感をもって各地で講演・展示などの活動を活発に行っています。

 両国間の草の根・民間交流についていえば、当地の韓日親善団体はこれまで長い間交流に尽力してくれており、両国関係がよい時も悪い時も常に両国関係を縁の下で支えてくれており、両国関係のかけがえのない資産です。当館としても、福岡県日韓親善協会をはじめとする九州・沖縄各県の日韓親善協会、各県の日韓友好議員連盟、福岡を拠点とする日韓博多会(ナドリ倶楽部)(通称:ナドリ会)、福岡韓友会などの会員の方々との交流を通じて、両国の友好親善の絆と手綱が緩むことのないよう親睦を深めるよう尽力しました。

 韓国と九州地域の地方自治体間では41の姉妹・友好都市協定が締結されており、それぞれが活発に交流しています。昨年は、ツルの越冬地として共通点をもつ順天(スンチョン)市と姉妹都市である鹿児島県出水市が行っている協力が実を結びました。出水市のツルの越冬地が湿地の保存に関する国際条約であるラムサール条約に登録されたのです。昨年のラムサール条約に関する会議において、順天市長は議長を務めており、出水市のツルの越冬地がラムサール条約湿地に登録されるよう働きかけを行いました。その甲斐もあって、昨年11月、「出水ツルの越冬地」が「国際的に重要な湿地を特定するための9つの基準」のうち、「定期的に2万羽以上の水鳥を支える湿地」など4つの条件を満たしていることから、ラムサール条約に登録されました(日本で53番目)。

交流活性化へ九州が先導

 ──現在の日韓関係をどう見ますか。

 李 韓日関係において、日本では昨年10月に岸田文雄内閣が発足し、韓国では今年3月に大統領選挙が実施されることにより、韓日両国で共に新たな政権が発足することになります。韓日間の難しい局面は約10年続いていますが、両国ともこれ以上引きずらせることは好ましくないという共通認識をもっており、関係改善に向けて本格的に動き出すものと展望しています。とはいえ、韓日関係が急速に改善できると考えるのも現実的ではないかもしれません。両国の関係悪化には領土問題、歴史問題などいくつかの要因がありますが、今後深刻なものへと悪化することを食い止めるための、いわば「ワクチン」が必要です。22年はそのための意義深いモメンタムの年となると思います。

 ──日韓関係改善に向けて、総領事館として今年はどのような活動を行いますか。

 李 韓日関係の発展において、韓国と九州地域との間の交流は古くから先導的な役割を担ってきました。コロナ以前、年間延べ300万人以上の人的交流が活発に行われていました(数字は18年のもの)。今年は九州地域が先導するかたちで両国間の交流を再度活性化し、それが韓日関係の本格的な改善のための呼び水となることを期待しています。 

 その雰囲気づくりのため、コロナが落ち着いていく状況を見計らいながら、総領事館としても草の根・民間交流を活発に展開していくことに努力を傾注しようと思っております。今年は九州オルレ(トレッキング)が10周年を迎える意義深い年です。各県の知事もオルレを重視しています。観光客の集客も期待できます。この節目にあたり、コロナ禍が収束し往来できるようになれば交流を活性化するために済州オルレと一緒に10周年の記念行事を計画しています。

九州オルレ 前列左5人目が李総領事
九州オルレ 前列左5人目が李総領事

 またオミクロン株の影響が落ち着きをみせるなど状況が許せば、例年5月に開催される予定の博多どんたく港まつりにおいて、朝鮮通信使の行列を再現する行事を実施することも計画しています。博多どんたくは博多という名前は付くものの、博多に限定せず多様な文化を包含したイベントであると思っています。朝鮮通信使は韓日友好親善交流において最も象徴的な存在であり、九州でその認知度を高めたいと思っています。江戸時代、幕府の国家予算が約76万両であったところ、朝鮮通信使は100万両を費やして実施された重要な行事であり、17年に韓日両国が合同で促進し世界記憶遺産に登録されました。日本での最初の訪問地は対馬、次が壱岐ですが、両地域は福岡県とのつながりが強い地域であり、その次に福岡県に訪問していることもあり、福岡県で再現することには意味があると思います。当時の文物を保存・管理している釜山文化財団とNPO法人朝鮮通信使縁地連絡協議会(対馬市)の協力を得て、通信使が当時実際に使用していた文物を用いるかたちで再現できると思います。

(つづく)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
李 熙燮
(イ ヒソプ)
1962年生まれ。85年延世大学校卒業、87年外交部入部。北東アジア課長、駐オーストラリア大使館公使参事官、駐インドネシア大使館公使、大統領秘書室勤務、駐日本国大使館公使などを経て、2020年11月に駐福岡総領事として着任。慶應義塾大学に留学。

(後)

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