2024年05月05日( 日 )

既存メディアの衰退と新メディアの台頭について(1)

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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏
ビデオニュース・ドットコム代表
神保 哲生 氏

 この国のマスメディアの腐敗は確実に、深く進行していて、もはや後戻りのできないところまできてしまっていると、思わざるを得ない。東京五輪のスポンサーに朝日新聞を始め、多くのマスメディアがこぞってなったとき、ジャーナリズムとして超えてはいけない“ルビコン”をわたってしまったのである。その後も、NHKの字幕改ざん、読売新聞が大阪府と包括協定を結ぶなど、ジャーナリズムの原則を自ら放棄してしまったと思われる出来事が続いた。
 神保哲生さんは、そんななかで、希少生物とでもいえる本物のジャーナリストである。彼が「ビデオニュース」社を立ち上げた時からのお付き合いだが、時代を射抜く目はますます鋭く、的確になっている。神保さんに、マスメディアの現状とこれからを聞いてみた。

(元木 昌彦)

左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏
左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、
ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏

メディアの腐敗

 元木昌彦氏(以下、元木) 既存メディアのどうしようもない衰退と腐敗については、今さら語るまでもないと思いますが、読売新聞と日本維新の会の副代表の吉村洋文知事がいる大阪府と「包括提携協定」を結ぶに至っては、いよいよ末期症状だと思わないわけにはいきません。地方権力の追及を放棄して、大阪府の広報紙に成り下がるということです。

『週刊現代』元編集長 元木 昌彦 氏
『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏

    これは、読売をはじめ朝日新聞などのマスメディアが、昨年夏の東京五輪のスポンサーになったことで、後戻りできない一線を超えてしまったからです。ジャーナリズムの基本である権力監視などはそっちのけで、生き残る、カネになるなら何でもありになってしまいました。神保さんは1999年に「ビデオニュース・ドットコム」を立ち上げ、毎週『マル激トーク・オン・ディマンド』などを配信していますが、今のメディア状況をどう見ていますか。

 神保哲生氏(以下、神保) たしかに、ここにきて既存のメディアの露骨な荒廃ぶりが目立っていますが、彼らはもう随分前から、越えてはならない一線を越えてしまっています。なので、そうした最近の動きも私にとってはさほど驚きではありませんでした。

ビデオニュース・ドットコム代表 神保 哲生 氏
ビデオニュース・ドットコム 代表
神保 哲生 氏

    問題は、単に自分たちが腐って堕ちていくだけなら、「勝手にどうぞ」という感じなのですが、日本では政府情報へのアクセスなどメディアがメディアとして機能していくうえで最低限必要としている権利が既存のメディアに独占されているため、新しいメディアがなかなか育たないことが問題です。ネットの普及で新しいメディアを起ち上げることは可能になりましたが、既存のメディアが政府と一体化してさまざまな特権や優先権を享受している現在のメディア市場では、新規参入者は著しく不公平な競争を強いられることになります。

 確かにインターネット全体としての広告収入は2019年にテレビのそれを超えましたが、これはユーチューバーからアダルトビデオまで、事実上無限にある日本のインターネット・サイト全体の広告収入が、せいぜい数百程度しかない放送事業者の広告収入を総額で追い抜いたというだけの話で、あまり意味のある数字ではありません。

 とくに報道分野においては、今でも既存メディアが99%を超える圧倒的なシェアを握っている状況は、インターネットの登場以前とほとんど変わっていません。また、ネット上に出回っているニュースに関連した情報も、大元を辿ればほぼ100%がマスメディアから出てきたものなので、今もテレビや新聞が報道市場を独占している状況は不変です。民主主義を下支えする機能を担っているジャーナリズムが、政府やスポンサーと癒着した関係にある一握りの事業者に独占されている状況では、日本の民主主義がまともに機能しないのは当然のことです。

 もう1つ重要なポイントは、マスメディア以外の情報源をもっていない人は、自分たちが依存している情報源がどれだけ堕落しているかを認識することが難しいということです。マスメディア自身が自分たちの恥部を晒すような報道をするわけがないからです。自分たちの特権的な地位を維持し続けたいマスメディアを主要な情報源としている人が圧倒的に多い状態が続く限り、日本が現在の閉塞状態から抜け出すのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

(つづく)

【文・構成:石井 ゆかり】

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<プロフィール>
元木 昌彦
(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

神保 哲生(じんぼう・てつお)
1961年東京生まれ。15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信など米国報道機関の記者を経て独立。99年、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立し代表に就任。主なテーマは地球環境、国際政治、メディア倫理など。主な著書に『ビデオジャーナリズム』(明石書店)、『PC遠隔操作事件』(光文社)、『ツバル 地球温暖化に沈む国』(春秋社)、『地雷リポート』(築地書館)など。

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