2024年05月09日( 木 )

既存メディアの衰退と新メディアの台頭について(8)

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『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏
ビデオニュース・ドットコム代表
神保 哲生 氏

 この国のマスメディアの腐敗は確実に、深く進行していて、もはや後戻りのできないところまできてしまっていると、思わざるを得ない。東京五輪のスポンサーに朝日新聞を始め、多くのマスメディアがこぞってなったとき、ジャーナリズムとして超えてはいけない“ルビコン”をわたってしまったのである。その後も、NHKの字幕改ざん、読売新聞が大阪府と包括協定を結ぶなど、ジャーナリズムの原則を自ら放棄してしまったと思われる出来事が続いた。
 神保哲生さんは、そんななかで、希少生物とでもいえる本物のジャーナリストである。彼が「ビデオニュース」社を立ち上げた時からのお付き合いだが、時代を射抜く目はますます鋭く、的確になっている。神保さんに、マスメディアの現状とこれからを聞いてみた。

(元木 昌彦)

左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏
左から、『週刊現代』元編集長 元木昌彦氏、
ビデオニュース・ドットコム代表 神保哲生氏

これからのメディアとは

 元木 最後に、これからのメディアはどうなっていくのかをお聞きしたい。既存のマスメディアは当分の間、不動産などを売って食いつないでいくでしょうが、20年30年も生きながらえることはできないでしょう。

ビデオニュース・ドットコム代表 神保 哲生 氏
ビデオニュース・ドットコム 代表
神保 哲生 氏

    神保 民主主義の国では国民は主権、つまり選挙で投票したり、税金の使い道を確認したり、消費者として商品やサービスを選ぶためには、真に受けてもいい信頼できる情報が必要です。政府も企業も、強制されていないのに、わざわざ自分たちに不都合な情報を主権者に公開したりはしません。だから民主主義の下では、国民が主権を行使するうえで必要となる公共性と信頼性が担保された情報が必要で、それを提供するのがジャーナリズムです。どんな時代になっても、社会がジャーナリズムの機能を必要としていることに変わりはありません。

 ただし、インターネットの普及で、これまで希少だった情報の伝送路が事実上無限になり、メディアの参入障壁が急激に低くなったため、今は無数の新しいメディアが生まれ、あれやこれやとさまざまな試行錯誤が行われている段階だと思います。

 ただ、そうしたなかでも、伝送路の希少性に依拠していた既存のメディアのビジネスモデルが、もはや通用しなくなっていることだけははっきりしています。

 これまでのような、ほんの一握りの大手メディアが金太郎飴のように並んでいる時代は、受け手の側も自分の情報源を選ぶのはそれほど難しいことではなかったかもしれませんが、有象無象を含む無数のメディアが玉石混淆状態で散らばっている今、受け手の側も信頼できる情報源を選ぶリテラシーを身につけなければなりません。

 そこで大切になるのは、やはりジャーナリズムの原則だと私は思っています。先人たちがさまざまな失敗を通じて培ってきたジャーナリズムの原則は、どうすればメディアが権力に取り込まれることなく、市民社会の信頼を勝ち得ることができるかを合理的に突き詰めた結果、生まれたもので、その原理にはどんなにメディアの形態が変わっても普遍的なものがあると考えています。

 ただ、その原理原則を押さえたうえで、その時々のメディア状況に合わせて最適なメディアのかたちを模索する努力を続けていくしかないでしょう。

 そうした考えに基づいて「ビデオニュース・ドットコム」はジャーナリズムの原則をかなり厳しく適用してきたので、どこからも出資を受けず、また広告も取らない方針を貫いてきた結果、経営が軌道に乗るまではかなり苦労しました。それでも今、有料会員数もようやく2万人を超えるまでになり、少しずつですが、若いジャーナリストの育成にも手を付けられるようになってきました。まだまだ小さなメディアですが、地道な努力の積み重ねが少しずつ実っている手応えは感じています。

『週刊現代』元編集長 元木 昌彦 氏
『週刊現代』元編集長
元木 昌彦 氏

    元木 「ビデオニュース」は意識が高い人が視聴しているため、影響力は大きいと思います。

 神保 開局当初から会費を月額500円(+消費税)でやってきていますので、少数の人から高いおカネを取るのではなく、できるだけ多くの人に見てもらえるメディアを目指しています。ただ、メディアは権力から自立していることは無論のこと、経済的にも自立していなければ、真の独立性は確保できないので、メディアを運営していく以上、ジャーナリストの育成と同時に、新しいメディア環境の下で生き残れるメディアを経営するノウハウを獲得し、それを実践できる人材を育てることも不可欠となります。そのようなノウハウは、日本はもちろんのこと、まだ世界中のどこにもほとんど存在しないからです。それは決して容易なことではないので、「ビデオニュース」も焦ることなく、50年、100年後を視野に入れながらやっています。

(つづく)

【文・構成:石井 ゆかり】

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<プロフィール>
元木 昌彦
(もとき・まさひこ)
1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に講談社を退社後、市民メディア『オーマイニュース』編集長・社長。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。現在は『インターネット報道協会』代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

神保 哲生(じんぼう・てつお)
1961年東京生まれ。15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信など米国報道機関の記者を経て独立。99年、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立し代表に就任。主なテーマは地球環境、国際政治、メディア倫理など。主な著書に『ビデオジャーナリズム』(明石書店)、『PC遠隔操作事件』(光文社)、『ツバル 地球温暖化に沈む国』(春秋社)、『地雷リポート』(築地書館)など。

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