2022年07月06日( 水 )
by データ・マックス

【ラスト50kmの攻防】JR九州の“お荷物”か 西九州新幹線

 九州新幹線長崎ルート(博多-長崎、約143km)全線開業のメドが立たないなか、JR九州は西端の武雄温泉-長崎(約66km)を9月23日に部分開業すると発表した。開業後、JR九州には西九州新幹線の貸付料負担が待ち受け、大都市圏と直結しない短距離の高速鉄道のままなら”お荷物”になる事態も予想される。

『開業は一日でも早く』

西九州新幹線 イメージ    2月22日。JR九州の青柳俊彦社長は『西九州新幹線』と名付けた武雄温泉-長崎の開業日を発表、「九州の発展や元気につなげるため、地域と一緒に開業への準備を進めたい」と抱負を述べた。

 開業日については、JRグループの旅客6社と佐賀県、長崎県が共催する国内最大規模の観光キャンペーン「佐賀・長崎デスティネーションキャンペーン」開幕日の10月1日など複数の案があったが、「『開業は一日でも早く』と社内外の要望が強かった」(JR九州広報課)ことから、候補日のうち最も早い9月の3連休初日の「秋分の日」になった。

 開業日1つとっても、コロナ禍で落ち込む旅行消費や観光需要を新幹線の開業効果で回復させたいとの願いが込められている。

 ただ西九州新幹線の開業は、JR九州にとって望ましい話ばかりではない。新幹線でも整備新幹線と呼ばれる北海道、東北(盛岡-新青森)、九州(鹿児島、長崎ルート)は、開業後、運行を担うJR各社が、その線区の鉄道施設を保有する鉄道・運輸機構に30年間貸付料を支払う仕組みとなっている。

 年額の貸付料は、新たに開業する区間の開業日前日に新幹線別に公表されるのが慣例。直近は北海道新幹線新青森-新函館北斗が開業した2016年3月26日の前日に公表された。北海道の貸付料1億1,400万円。ちなみに九州は102億円だった。

「受益の範囲」で貸付料支払い

 JRへの貸付料は、1996年12月の政府与党合意により整備新幹線を整備して生じる「受益の範囲」が限度。金額は新幹線を整備した場合の収益から未整備の場合の収益を差し引いて計算する。この作業は国交省と鉄道・運輸機構が仕切り、JR各社は参加できない。

 北海道の場合、新青森-函館北斗の開業でJR北海道に受益が発生するとは考え難いが、同社は30年間で総額42億円の貸付料を支払うことになった。2030年度開業が目標の札幌延伸が前提だが、北海道新幹線を運行しないJR東日本にも新青森接続で年額22億円の「受益」が発生するとして、その分の貸付料支払いが求められた。

 国交省は「西九州新幹線の貸付料も、従来通り開業前日の発表になるはず」(鉄道局幹線鉄道課)と話す。ただ料金やダイヤ(運行本数など)が決まっていないため、現時点ではJR九州に発生する開業後の「受益」は不明。年額貸付料は計算できないとする。

九州新幹線の貸付料は経営安定化基金で一括払い

 実は、JR九州の青柳社長は20年12月22日の記者会見で武雄温泉-長崎の部分開業について、「(博多-長崎)途中の新鳥栖―武雄温泉の整備方針が決まっておくべきだ。そうしないと無責任。途中が将来どうなるかわからず、不安をもったまま部分開業すべきではない」と語気を強めた経緯がある。

 この発言2カ月前の10月23日。国交省と佐賀県は3回目の「幅広い協議」を行い、国交省側が新鳥栖-武雄温泉に導入を計画していた新幹線と在来線を直通運転するフリーゲージトレイン(FGT)の開発断念を伝えた。それから1年半近く経った去る2月10日。「幅広い協議」は6回を数えたが、この間、FGТ論議などに終始して折り合う気配はない。開業日は、そんな状況で発表された。

 20年12月の会見で青柳社長は「JR九州の受益の範囲内で決めるルールさえ国が守ってくれるなら『決め』の問題と考えている」とも話していた。

 旧国鉄の分割・民営化時、国は経営基盤が弱いJR九州に経営安定化基金3,877億円を交付。同社は2016年10月の株式上場を前に、基金を取り崩して九州新幹線の貸付料3,060億円(単年度102億円を30年払い)を一括返済、巨額の長期債務を解消した。

 人口減と相次ぐ自然災害でJR九州は鉄道事業が厳しさを増す半面、長期債務を帳消しにした安定化基金に匹敵する資金は見当たらない。『決め』の中身次第では、西九州新幹線の貸付料が同社の屋台骨を揺るがす可能性は捨てきれないだろう。

【南里 秀之】

(27)
>>

関連記事